オオサンショウウオ生息地における「ふるさと清流自然学校」事業 |
a |
オオサンショウウオ生息地における「ふるさと清流自然学校」事業真庭地域で進めている「ふるさと清流自然学校」事業は、天然記念物「オオサンショウウオ生息地」に指定された旭川水辺の清流環境、および河畔に残る自然歴史遺産を活用した体験メニュー、環境学習プログラムを作成し、河川を利用した環境学習地域づくりを進めることを目的としている。 真庭遺産研究会は、晴れの国野生生物研究会、真庭自然を観察する会らと連携し、岡山県真庭地域北部を中心に河川について、河川構造物の状況について調査し、オオサンショウウオ繁殖状況の情報を収集するとともに、地元住民より今と昔の河川環境の変化について聞き取り調査を実施し、伝統的河川土木工法や昔見られた淵、河畔林などを検証している。 そして、平成14年9月、11月の住民を対象に環境セミナーの開催では、オオサンショウウオの生息状況など中心に河川環境についてその現状の報告、および、望ましい「ふるさとの川」のあり方について活動発表をしている。 オオサンショウウオは、世界最大の両生類で、限られた地域にしか生息していないということで、国の特別天然記念物に指定されている。 中国山地では、河川を中心に豊かな生態系がみられ、オオサンショウウオはその生態系の頂点に君臨してきた。そこには、原生自然的な環境だけでなく、人と川との生活の中の係わりによって形成された半自然的な水辺環境にもみられ、オオサンショウウオも人と同じフィールドに生きてきた。 本調査は、オオサンショウウオが多く棲むといわれている中国山地について、河川水辺の景観・風景やそこに生きる野生生物、人の手の加わり方(人と川との生活の中での係わり)を学ぶことで、「人とオオサンショウウオとの川を通じての関係」や「自然と共生する暮らし方」を考え、真庭地域を流れる清流河川およびその周辺環境を活用し「ふるさと清流自然学校」事業を進めることで、「美しい日本の自然と風景の保全再生」へとつなげていこうというものである。 中国山地におけるオオサンショウウオ生息地の現状中国山地は浸食が進んだ老年期の山地で、近年まで薪炭林や草原・牧野(採草地、放牧地)など里山的要素の強い環境が多くみられた。 とくに、岡山県側は、県境をなす山地の稜線(分水嶺)付近まで、なだらかな高原地帯となっており、湿地帯が形成されている場所も多くみられた。>薪炭林や草原・牧野の多くは、人工林や雑木林へと変わっている。また、県境付近まで人里や農地となっている場所も多く、そこには、谷川の清流を中心に集落が形成されており、人と川との生活の中で関わりを感じさせる風情ある水景色がみられる。 鳥取県側は、岡山県に比べ、比較的険しい地形となっており、芦津渓(智頭町)など山地渓谷は、中国山地にあって原生自然的な要素が多くみられる秘境域であり、深い峡谷と発達した自然林がみられ、ブナ・スギ天然林、トチノキやサワグルミからなる渓畔林、ブナやミズナラからなる落葉樹林が生物多様性を高めている。 大山・蒜山一帯は中国地方にあって変化に富んだ火山地形となっており、大山には地獄谷(琴浦町)などの深い峡谷や放射谷が形成されている。 このような環境の中国山地にあって、岡山県真庭市北部(旧川上村、旧八束村、旧中和村、旧湯原町)は、国によって天然記念物「オオサンショウウオ生息地」の地域指定を受けており、世界最大の両生類であるオオサンショウウオを頂点とする地域固有の生態系が維持されてきたが、その生息環境は年々悪化している。 岡山県北部に位置する真庭地域を流れる河川には、ハンザキと呼ばれるオオサンショウウオが多く棲息しているとされ、真庭市北部は特別天然記念物オオサンショウウオ生息地に指定されているが、人と川との係わりが希薄化する中で生物多様性が低下している。加えて、農村の中小河川に求められる生物多様性を確保する河川工法は十分とは言えず、年を追うにつれて棲息環境は減少しており、早急な保護対策が求められている。 オオサンショウウオはそのグロテスクな容貌と、特別天然記念物という格付けにより、真庭地域住民にとって縁遠い存在になってしまい、その保護組織が育っていない。一方、地域住民の「ふるさとの川」の「思い」は深く、農村において失われつつある清流環境(景観)再生への期待は大きい。 事業の目的と今後の活動本調査事業は、オオサンショウウオの生息する河川水辺について、概況調査を実施するとともに、昔懐かしい川の自然が残る河川区域や風情ある水辺の風景が残る環境を掘り起こし、清流景観を保全し再生する活動から、河川における生物多様性の保全に発展させ、そして、住民参画のオオサンショウウオ保護活動を促進することを目的に実施した。 この調査を継続し、オオサンショウウオの生息に適した生物多様性のある水辺空間がどのような環境であるかを明確にすることにより、人と川との係わりが希薄化する中で、生物多様性が低下しつつある人里を流れる河川水辺について、オオサンショウウオを環境指標とする人と自然とが共生する川の環境イメージを確立する必要がある。 これまで、ともすれば規制の側面が強かった自然保護であるが、人の生活の空間でもある人里域では、人の生活の営みの中で河川の生物多様性が維持されてきたことから、生物多様性の保全については、地域住民の関与は不可欠である。 保全再生すべき水辺環境像(清流景観イメージ)を具体的に示すことで、河川生態系を保全しようという地域住民の積極的な関与が促され、ここ真庭地域において、河川水辺での生物多様性を回復させる新しい動きが生まれることを期待する。 オオサンショウウオは、そのグロテスクな容貌と、特別天然記念物という格付けにより、真庭地域住民にとって縁遠い存在になってしまい、その保護組織が育っていないが、清流環境(景観)の保全再生という身近なテーマでの活動は、地域住民の協力と賛同を得易く、住民参画の天然記念物保護についての実践的な取り組みを促進していきたい。 現在、オオサンショウウオが多く生息するとされる水域(とくに生息地指定を受けている岡山県真庭地域内)について、水辺景観、河川形状、水辺植生、水生生物の生息状況、人の手の加わり方(河川工事の状況など)を調査を継続しており、調査対象水域での生物多様性や、川を通じての「人とオオサンショウウオとの係わり」を解明するとともに、良好な自然環境や生息環境が保たれている清流区域を、オオサンショウウオ・サンクチュアリーとして紹介するとともに、清流環境(景観)保全再生計画を検討中である。 今後は、清流景観の調査および生物多様性調査の成果を踏まえ、オオサンショウウオを環境指標に人と自然とが共生する川の環境イメージを確立するとともに、真庭地域におけるオオンサンショウウオ生息地環境保全構想を策定し、これをもとに、地域住民と地元自治体(真庭市文化財課)に呼びかけ、オオサンショウウオ生息地における清流環境(景観)保全を実践的に推進する保護組織を設立することを呼びかける予定である。 また、これまでの調査記録などをまとめ報告書を作成するとともに、地域住民や環境NPO、関係行政機関と連携し、オオサンンショウウオ生息地の環境保全を目的とした環境フォーラムを開催する。 フォーラムでは、オオサンショウウオをシンボルに清流の環境を活かした地域づくりについて意見交流をはかる。 さらに、中国山地における人と川との望ましい関係を探るとともに、オオサンショウウオ・サンクチュアリーについて、清流環境(景観)を保全再生を進めることで、幼生の生息環境保全や営巣環境の再生などの住民活動を展開させる。 川の自然の豊かさは、護岸や河川構造物の状況のほか、水辺の植生や流域の環境によるところが大きく、背後にひろがる山林(主に人工林)が荒廃する中、オオサンショウウオの生息環境も悪化してきた。 浸食の進んだ老年期の山地である中国山地、日本アルプス(中部地方)に代表される迫力のある山岳景観は少なく、これまで中国山地は観光的魅力に乏しいとされてきた。 しかし、芦津渓や山乗渓谷の峡谷にみるように、連続する瀑布や巨樹がアクセントとなす渓谷域も多く、里山的要素の強い中国山地にあって、原生自然的な要素が多くみられる秘境域も存在している。 また、里山の人気が高まり、「自然との共生」が求められるようになった今日、人里近くにあって、人と自然との係わりや「温もり」を感じさせる静かな清流は固有の自然文化遺産でもあることから、良好な自然環境の残る清流域およびその背後地となる林野域を生態系保全再生区(ハンザキ・サンクチュアリー)として保全再生していく活動をエコツーリズムとして進めていくことで、環境保全再生活動と観光資源活用との両立をはかる。 1 オオサンショウウオの生態「生きた化石」と呼ばれるオオサンショウウオの生態を知り、オオサンショウウウオの生息にとって好ましい環境を考えてみよう。 1−1オオサンショウウオの名前と生息分布オオサンショウウオという名前は、地方によってはハンザキ、ハンザケ、アンコウ、ハザコなどと呼ばれている。ハンザキの語源は、半分に切り裂いても生きているように思えるところからきているといわれることもあるが、口が大きく、半分に裂けているように見えるからではないかとも言われている。また、一度かみついたら、雷が鳴ってもはなさないと言われている。 昔は、動物性蛋白源となる魚や肉の入手が少なかったので、貴重な蛋白源として食用にしていた地方も多く、井戸や池の中に放すこともあり、蒜山地方では、「つかい川」でオオサンショウウオを飼っていたところもあった。 このようにオオサンショウウオは、昔から人々の暮らしとかかわりを保ちながら生きてきている。 オオサンショウウオは、世界最大の両生類で、限られた地域にしか生息していないということで、国の特別天然記念物に指定されている。 また、オオサンショウウオは、「生きた化石」と言われている。 オオサンショウウオは、今から数千万年前からほとんど進化せずに生き続けていたとされている。岐阜県以西の日本と中国南部の四川省とアメリカ大陸東部に3種が生き残ったとされている。 1−2オオサンショウウオの体の特徴頭部にはイボイボがあり、ナマズのような体つきで、体にぬるぬるした皮膚をしており、背面には、茶褐色に黒色の斑紋がある。捕らえたり、棒でつついたりして刺激を与えると、背面全体に白い粘液を出す。この粘液は、独特の臭いがある。この臭いがサンショの臭いに似ていると言われることがある。 体巾いっぱいの大きな扁平の頭部をしており、前端に一対の鼻孔がある。口は、横に大きく頭部の幅いっぱいになっている。口の中には、1mmくらいの小さな歯があごの縁に沿ってたくさん並んでいる。さらに上顎の歯列の内側には、鋭い鋤骨歯がある。目は、鼻孔の後ろ側面に近いところにあるが、小さく分かりにくいのでよく見ないと分かりません。まぶたは、ありません。 足は、胴部の前後にあり、前肢には4本の指、後肢には5本の指がある。指には爪がなく、胴の両側面には、小さいひだがある。尾は全長の3分の1近くあり、縦に扁平である。 オスとメスの区別は、外見ではできにくいが、繁殖期にはオスは総排出口周囲をとりまいている線が肥大して隆起してくるので雌雄の判別が可能となる。 オオサンショウウオの体の色は、茶褐色に黒色の斑紋が一般的でるが、全身真っ黒のものや黄色に見えるものまで個体変異は大きく、生息場所の川床の色に似た保護色になっている。 孵化後、1年間は、黒色をしているが、やがて茶褐色になり、小さな黒点が現れ、大きな斑紋となる。 1−3オオサンショウウオの生活史4月頃から活動は活発になり、8月には産卵のための移動がはじまる。8月下旬から9月にかけて産卵し、10月を過ぎるとあまり隠れ家から出てこなくなる。オオサンショウウオは、冬眠はしない。 冬季は、水温が0度でも体温は4度ある。 夜、川へ出てきて餌を取る。オオサンショウウオは、夜行性の動物で、昼間はあまり動かないが、昼間でも目の前に来た動く物に対して、採食行動を行う。 目の前に来る動くものは枯れ葉でもかぶりつきく。小魚、サワガニ、カエル、水生昆虫、小型のサンショウウオ、ネズミ、ヘビ、共喰いすることもある。 川の生態系では頂点に位置しており、食物連鎖の最高位で、天敵はいないが、幼生時代には、イタチなど他の動物に捕食されている。 産卵期は、8月下旬〜9月。 水温が20度以下になる9月上旬が最も多い。標高が高く、水温が8月でも20度以上にならないような河川では、8月中旬に産卵している場合があるとされている。 産卵場所は、岸辺に掘られた深い横穴など奥から伏流水が出るようなところが好適である。<>毎年、同じ穴で産卵することが多い。 繁殖行動としては、まず、オスが産卵に適した穴を見つけ、産卵できるように巣穴内をきれいにし、メスがやってくるのをまつ。他のオスがやってきたときは、闘争が起こる。 産卵が終わると1頭のオスが巣穴に残り、卵を守る。 産卵期の闘争により四肢を咬みきられたりすることがある。 四肢の欠損は、オスに多く、オスは闘争するが、メスは闘争しないとされている。 産卵数は、1匹のメスは、300〜500、多いときは700個近くを産む。卵黄の直径は、5〜8mmで20〜25mmのゼラチン質の保護膜で包まれていて、数珠のようにつながり、お互いにからみ合って一塊りになっている。 孵化日数は、40〜50日で、全長30mm程の幼生が誕生する。誕生後は、幼生分散までの翌年の1月〜3月まで巣穴の中にいる。その後、川へ分散し、川底に流れ積もった落ち葉などの下に潜んでいる。 この時の全長は4〜5cmになっている。幼生は、4〜5年かかって、外鰓が退化縮小する。この頃の全長は20cm位になっている。 1−4オオサンショウウオの生息環境ハビタット(棲みか)は、隠れ家というのが適しているとされており、岸辺の1メートル以上もあるような横穴や大きな石の下などに定住している。産卵巣穴は、川岸の水中に開いた入り口で、入り口は小さく、奥は広くなっている。巣穴の奥に伏流水などの水が流れ込んでいるのがより快適な産卵巣穴とされている。また、渇水時でも巣穴は水面下となる場所である。 オオサンショウウオは、渓流の王者と呼ばれる。山地の谷川に生息している感が強いが、意外にも河川の中流まで普通に生息し、時に下流で発見されることがある。 生息地の条件としては、「水枯れしない隠れ家があること」、「餌となる小魚や昆虫類が生息していること」、「流れに淵や瀬があり、ある程度の水量があること」、「水温が高すぎないこと(とくに夏場の水温が25℃以上にならないこと)」が考えられる。 オオサンショウウオは夜行性である。しかし、最近では、河川改修などで、隠れ家なくなり、昼間に見つけられることも多くなっているといわれている。 隠れ家は、普通は川の側面にできたくぼみが多いが、大きな岩の下であったり、川に繁っている藻の蔭であったりするということである。 川の流れに直射日光が照りつけるようなところでは、水温が上がるので、川面を覆い被さるように樹木や竹藪が繁っていることで水温の上がりにくい環境になっている。 オオサンショウウオは、一ヶ所に塊まって生息していることはほとんどなく、テリトリーを保っていると考えられている。 自然林や雑木林の中を流れる清流域がオオサンショウウオの生息環境に適しているとされている。それでは、雑木林の下を流れる谷川では、どんな生き物が観察できるのだろうか。 人の手が加わっていない自然の川岸は、草が茂り、木が根を張るなどしており、洪水の度に石や土砂が流されて微妙に水辺の状況の変わることから、細かくみると、複雑な形状となっている。こういったや多様性のある環境がみられるのが、自然の川岸である。雑木林には多くの野鳥や小動物、昆虫が棲み、落葉樹の側を流れる谷川には、水生昆虫や魚の餌となる落ち葉、木から落ちた昆虫などが多く、それを求めてやってくるイタチやカワセミ、オニヤンマなど多様な生態系がみられる。 2 天然記念物「オオサンショウウオ生息地」の環境中国山地にあって天然記念物「オオサンショウウオ生息地」に指定された地域の河川がどんな環境であるか調べてみよう。 中国山地の河川や源流の環境について調査を行う中、ここでは、中国山地において天然記念物「オオサンショウウオ生息地」の指定されている岡山県真庭市北部地域ついて河川環境概況をまとめている。 真庭地域は、岡山県三大河川の一つ旭川の上流域にあり、川上地区(旧川上村)、八束地区(旧八束村)、中和地区(旧中和村)、湯原地区(旧湯原町)の全域がオオサンショウウオの生息地指定を受けており、真庭地域では固体のみならず、その生息の場である河川そのものが天然記念物になっている。生息地指定を受けている真庭市北部には、大山に連なる古い火山(蒜山三座や皆ヶ山)が聳え、広く高原状の地形をなしており、中国山地にあって広々とした水田農村地帯が広がっている。このような特殊な地形条件を反映してか、山地の渓流と水田域を流れる平地河川、田んぼや集落に水を引く水路が絶妙な関係にあり、オオサンショウウオを頂点とする地域固有の生態系が維持されてきたが、河川工事やダム建設、土地利用の変遷により、その生態系も大きく様変わりした。 真庭地域では、広域的な視野でオオサンショウウオを生物指標(あるいはシンボル)に地域生態系を保全する仕組みづくりが求められている。まずは、良好な自然環境の残る河川域及びその背後地となる森林域を生態系保全再生区(ハンザキ・サンクチュアリー)として永続的な保全をはかり、かつての環境を再生することから進めていくことを目標に調査を進めた。 蒜山地域(旧川上村、旧八束村、旧中和村)の山地に水源を発した旭川は、中国山地に河谷を形成しながら、湯原地区(旧湯原町)の人里を流れる。 湯原地区(旧湯原町)を流れ下った旭川は、勝山、久世、落合の市街地や水田農村域が広がる小盆地を大きく蛇行して流れ、隆起準平原(吉備高原)に続く丘陵地帯を深く侵食して、県南部に平野域へと流れ込んでいる。 この間、旭川は、二つのダムによって、魚類の遡上が分断されるともに、湯原湖、旭川湖の湖沼域が形成されている。 湯原湖、旭川湖の湖沼域は、ともに人工のダム湖であるが、水辺に樹林が広がっているため、多くの野鳥を観察することができる。旭川湖では、対岸の林にアオサギやコサギが集団で営巣するコロニーがみらる。アオサギやコサギのほか、水辺の野鳥としてカワセミやセグロセキレイ、キセキレイの姿が見られ、たまにヤマセミが飛来することもある。 ヤマセミは、清流の指標とされる野鳥で、カワセミと同じように、土崖に丸い穴を掘って巣をつくる。また、水面に枝を張る木に止まり、水中の魚めがけて急降下して魚を捕まえて食べますが、近年その姿を見かけることは少なくなった。 旭川の支流となる備中川などでは、6月に多くゲンジボタルの発生を観察することができる。ゲンジボタルは、日本特産の種で成虫は体長12〜18mmぐらい、体色は黒色で鈍い光沢があり6月〜7月に出現し、清流近くの林地でみられる。幼虫は清らかな水の流れる環境に生息し、水生巻貝のカワニナを捕食して育つ。分布は本州、四国、九州で、県内でも山間の清流を中心に広く分布しているものの、近年、河川水の汚濁や護岸工事による生息域の消失が進み、生息域と個体数がともに減少した。 また、真庭地域の南部を流れる備中川などでは、昔、アユモドキやオオサンショウウオの姿をみることができたと聞きく。 2―1川上地区(旧川上村)の河川概況真庭市北部(旧川上村、旧八束村、旧中和村、旧湯原町)は、国によって「特別天然記念物オオサンショウウオ棲息地」の地域指定を受けており、ここでは、天然記念物「オオサンショウウオ生息地」に指定された川上地区(旧川上村)の河川環境について、自然概況、地形・地質、植生・土地利用などからみてみる。 @ 蒜山地域の自然概況 1)蒜山地域の気象 蒜山地方(旧川上村、旧八束村、旧中和村)は冬季に降水量が多い典型的な日本海側気候に属しており、積雪寒冷地帯である。周囲を山岳に囲まれて、季節風に含まれる湿気が冬・夏ともに多量に落とされ、天気はきわめて変わりやすい。 当地は海抜400m以上の盆地であるため、気温は冷涼で、日較差が大きい。蒜山高原の最高気温は真夏日の30℃を越えることはしばしばあるが、最低気温は20℃前後と比較的しのぎやすい。冬季は季節風をまともに受けるため、寒さはとくに厳しく、最低気温が10℃以下になることもよくある。 日本海側気候により降雪日が多いが、降雪量は必ずしも多いとはいえず、上蒜山スキー場も年末年始には営業不能になる事態が往々にしてみられる。積雪は、1月中旬を過ぎると安定するが、3月上旬〜中旬にかけて積雪は消え、4月に入って本格的な春を迎える。 2)蒜山地域の水象 蒜山地方は、四季を問わず降水量の多い地域であり、梅雨時に降った雨水や春先の雪解け水は、山間を通って絶えることなく蒜山盆地の河川に流れ込んでいる。 この地域は岡山県の三大河川の一つである旭川の最上流域に位置している。同河川は川上村の北部および西部の山地帯を源流域とし、川上地区(旧川上村)の白髪川、内海谷川、天谷川、田部川、明連川、湯船川、粟住川、八束地区(旧八束村)の玉田川、井川などの支流を集めながら蒜山盆地を東流南下して、湯原湖に流入している。 また、中和地区(旧中和村)は、旭川支流下和川の水系に属している。下和川は津黒川、植杉川などの支流を集めながら中和村初和で旭川(湯原湖)に合流している。 また、旭川の支流は途中から集落に引き入れられ、戦後水道が普及するまで「使い川」と呼ばれ、人々の命と暮らしをはぐくみ、生活用水として集落の立地を支え続けてきた。 3)蒜山地方の地形・地質 旧川上・八束村からなる蒜山地方は、北を蒜山山座(上蒜山1,200m、中蒜山1,122m、下蒜山1,100m)と皆ヶ山(1,159m)、擬宝珠山(1,085m)、南を高張山(704m)、天狗山(690m)、愛宕山(803m)、丸山(1,065m)、西は朝鍋鷲ヶ山(1,073m)、三平山(1,010m)などの山々に囲まれ、これらの山々のふもとには東西約14km、南北約5kmの緩やかな起伏の複合扇状地地形を示す山間盆地が広がっている。 盆地内を流れる旭川は、西から東に流れ、下長田で急に南に折れ、中国山地に深い峡谷を刻みながら流れている。盆地内には旭川沿いに幅1km程度の沖積平野が広がり、これが更に下刻作用のため削られ、川岸に数mの崖が作られたり、基盤岩が現れたりしている。 4)蒜山地域の植生・土地利用 旧川上・八束村は、海抜400mから最高が上蒜山の1200mとする範囲にある。冷温帯林と暖温帯林の境である暖かさの指数85℃は海抜750m前後にあるとされる為、両村では冷温帯林と暖温帯林の両方の植生を見ることが出来る。 自然度が高く、原生自然的な要素を持つ植生の中で顕著なものにブナ林が上げられる。両村域では、鬼女台近くの蒜山大山有料道路の沿線や上蒜山、朝鍋鷲ヶ山の山頂付近、蒜山三座の稜線部などに分布している。この域のブナ林はクロモジーブナ群集に属し、日本海要素と太平洋要素を合わせ持つ中間型となっている。 この他に特徴的な自然植生として湿地がある。蛇ヶ乢や内海乢、東湿原、犬挟峡などの湿地にはヌマガヤオーダーの湿生植物群落がみられる。なかでも蛇ヶ乢湿原は盆地に起源を持つ貴重な湿原で、特にイワショウブの個体数が多いことが特徴となっている。 また、蒜山三座や、丸山の一部にみられるブナ・ミズナラ群落はブナ林の択伐林で面積的には多くないが自然植生に近い植生域として資源性が高く評価される。 蒜山三座や皆ヶ山などの斜面にかけてみられるクリ・ミズナラ群落や、山麓域にかけてみられるコナラ群落は、いずれも代償植生で、クリ・ミズナラ群落はブナクラスの、コナラ群落はヤブツバキクラスの二次林である。 内海谷や朝鍋山麓の牧野、中蒜山南麓の火山灰台地上に広がる、茅場と呼ばれるススキ野原をはじめ、三平山や鬼女台、蒜山三座の稜線部にみられるササ草原、蛇ヶ乢や高松川上流にみられる湿原が遷移したススキ草原など、広範囲にわたる草原が両村域の所々にみられる。 両村域にも中国地方の他の地域と同様に広く植林がなされ、山地の山腹などで多くのスギ・ヒノキの植林がみられる。また、鳩ヶ原、皆ヶ山の山麓域や蒜山三座の下部斜面から山裾にかけてには、カラマツの植林も広く分布し、冷地的、高原的な要素を醸し出している。その他、朝鍋牧野の山裾には防風林としてのクロマツの樹林帯がみられる。 川上・八束両村における植生自然度の分布を見ると蒜山原の低平地や台地で5以下の植生域が大部分を占めているのに対して、蒜山原周辺の山麓域で6〜7、鬼女台の南、蒜山や皆ヶ山などの山岳域では8〜9の高い自然度の植生の分布がみられる。 また、蒜山地方を大きく特徴づける土地利用として牧草地があげられ、両村共に村の総面積の約1割が牧草地、放牧地、茅場として利用されている。代表的なものに、三木ヶ原に広がる中国四国酪農大学の放牧場をはじめ、朝鍋山麓の放牧場、三平山北麓の放牧場、郷原の山裾に広がる採草地、鳩ヶ原の台地上に見られる牧草地、百合原の火山麓扇状地に広がる放牧場、犬挟峠付近の放牧場、などがあげられるが、この他にも多くの牧草地が両村内の山裾や火山灰台地上で見かけられる。 牧草地と並んで両村の特徴となる土地利用にダイコン畑があげられ、これも両村の総面積の約1割がダイコン畑や飼料畑として利用されている。これらの畑の多くは、朝鍋山麓の牧野をはじめ、鳩ヶ原の台地上、茅部野や郷原の段丘面上、蒜山三座の火山灰砂台地上や上在所近くの段丘崖上に開けた山麓牧野などの山麓台地上に広がっている。 また、両村の面積の約1割を占める水田は、蒜山原の平野部に広がっており、集落はこの水田域に集中している。 皆ヶ山や朝鍋鷲ヶ山、丸山、その他丘陵地や山地の山腹ではスギやヒノキの植林地が広く見られる。また、上蒜山の火山麓扇状地や鳩ヶ原、皆ヶ山の山麓域では、まとまった面積でカラマツの植林地が見られる。 蒜山地方の西南部には米子道が通り、また、八束地区(旧八束村)の四ツ塚古墳に近い花園では野球グランドなどの設けられたスポーツ公園や珪層土の露天掘りの現場などが見られる。 とくに、川上地区(旧川上村)の三木ヶ原で観光施設、保養施設が集中しており、観覧車やジェットコースターなどの遊園地的な施設も見られる。三木ヶ原の一角を除くと両村内には小規模なスキー場、キャンプ場、ミニゴルフ場が山裾にみられる程度で、大規模なレジャー施設は見あたらない。 A 地形・地質からみた旧中和村地区の河川環境 中和地区(旧中和村)は、海抜約400〜1,100mの範囲にあり、旧川上、八束村同様に、冷温帯と温暖帯の植生が存在する。村内で最も自然度高い植生としては、ブナ林があげられる。ブナ林は、海抜約750m前後を下限として山頂部にまで及ぶが、村東部に連なる山乗山や津黒山の稜線付近にわずかにみられる程度である。当地域のブナ林は、クロモジ−ブナ群集に属し、日本海要素と太平洋要素を合わせ持つ中間型となっている。 また、高海抜地や山地の稜線付近にはブナ−ミズナラ群集やクリ−ミズナラ群集などの自然林がみられる。これらの植生はブナクラスの代償植生である。 その他に、注目される植物群落としては、大原地区付近に広がるヌマガヤオーダーの湿地があげられるが、局地的でその分布は詳細に知られていない。 一方、山麓部や低地では、自然植生はみられず、スギ・ヒノキ植林、代償植生であるアカマツ林やコナラ、アベマキを主体とする二次林が発達している。津黒高原にはススキ草原が広く分布している。 中和地区(旧中和村)の土地利用は、村面積の大部分を山林域が占め、下和川沿いの平地部に集落や水田、畑地が多くみられる。水田耕作地は山麓の谷筋まで入り込み、一部には耕作が放棄されて湿地化している。 平坦な丘陵地上では大根などの畑地が広がっているが、八束、川上村に比べれば、耕地面積は小さい。 また、中和地区(旧中和村)の特徴づける土地利用のひとつとして、津黒山の山麓に広がる津黒高原があげられる。この一帯は、ススキ草原が広がり、周辺には国民宿舎、スキー場、オートキャンプ場などがみられる村内最大のレクリエーション地となっている。 一方、村のほぼ中央には1級河川下和川が貫流し、これに支流の植杉川、山乗川、津黒川などの2次支川が合流し、本流の旭川に注ぐ。山乗山(1,047.9m)や植杉峠に源を発する植杉川や山乗川は、水量が豊富で、落ち込み(滝)や淵などが連続する急峻な侵食谷となっており、景観的にも良好な河川環境を呈している。 B 地形・地質からみた川上地区(旧川上村)の河川環境 川上地区(旧川上村)は旭川の上流域に位置し、地域を流れる河川としては、旭川をはじめ、その支流の明蓮川、湯船川、田部川、内海谷川、天谷川、苗代川、白髪川、熊谷川、粟住川などがあげられる。 これら山地に源を発した旭川の支流は、火山性台地の谷筋や山麓の牧野を緩やかに流れ、蒜山原を流れる旭川へと注ぐ。 とくに、内海谷川、天谷川、苗代川など、北部の火山性の台地域を流れる旭川の支流での河川勾配は小さく、クロボコと呼ばれる火山灰に覆われた台地を長い距離で浸食し、浸食崖を形成しながら蒜山原へと流れ出す。 村が旭川の源流域にあたるため、平野をゆったりと流れる川幅の大きな河川の水辺はみられないが、蒜山原を流れる旭川では、瀬と淵、ワンドや中州が形成され、生態系の豊かさを感じさせる川辺の景観が形成されている。 なお、旭川の河畔には、蒜山原を流れる旭川の景観を特徴づける地形として河岸段丘がみられ、旭川の岸辺には高さ10〜20mの段丘崖が形成されている。 また、川上村には、海抜1,159mの皆ケ山を最高峰として、擬宝珠山、三平山、朝鍋鷲ケ山などの山地が連なるが、村全体の標高が高く、比高差1,000mを超える急峻な山地や山岳地帯は存在しないため、大山の放射谷にみられるような降雨時にのみ表面を水が流れる沢はほとんどみられない。 さらに、村内には、急斜面に挟まれた深い谷がみられる場所は少なく、皆ケ山東麓を流れる湯船川や苗代谷川の上流に小規模な峡谷がみられる程度である。 村内で渓流の環境がよくみられる場所は、皆ケ山の山麓を流れる明蓮川や湯船川の上流部をはじめ、蒜山原に注ぐ熊谷川、白髪川の上流部など、山地に源を発する谷川の上流域で、鳩ケ原と呼ばれる火山性台地の谷筋に湧水滝がみられるほか、朝鍋牧野に注ぐ沢や湯船川の上流などに渓流域が形成されているものの、大きな落差をもって流れる急流や瀑布はみられない。一方、火山地形が広く分布する川上地区(旧川上村)では、谷筋や山裾に湧水がみられ、蛇ケ乢湿原をはじめ内海谷川、天谷川など鳩ケ原の谷筋や山裾などに小規模な湿地が多く形成されている。 なお、村内に湖や沼、ため池、貯水池など大きな面積の止水域はみられず、蛇ケ乢湿原の池沼や明蓮川に設けられた堰堤の上流などに止水域がみられる程度である。 C 植生・土地利用からみた川上地区(旧川上村)の河川環境 川上地区(旧川上村)の土地利用は、渓流域をなす山地が山林、台地上や山裾が牧野、その谷筋は原野や農地となっており、蒜山原に出ると河川の周囲には水田や集落が開けている。 北部西部の渓流域に広がる山林の多くは、コナラやミズナラ、サワグルミ、トチノキなどからなる落葉樹林で、湯船川や苗代川の源流域には自然性豊かなブナ林の環境もみられる。一方、南部の山地では比較的スギ・ヒノキの植林が多くみられ、そこを流れる谷川の周囲には、自然性が低下した薄暗い森林の環境もみられる。 放牧場や高原野菜畑の景観が広がる山裾の牧野についてみると、朝鍋山麓を流れる渡瀬川の谷川に沿ってトチノキやサワグルミなどからなる渓畔林が帯状に残されており、渓流の自然が保全されている。 また、鳩ケ原と呼ばれる古期大山の台地上や茅部野、郷原の段丘面上には、ダイコン畑や牧草地、飼料畑などの高原畑の風景が広がっており、その谷筋には、天谷川や内海谷川、宿波川などの水辺がみられ、ハンノキやヤナギが疎林をなす湿地も形成されている。 このように、火山地形が広く分布する川上村では、蛇ケ乢湿原をはじめとして、鳩ケ原の谷筋などに湿地が形成され、ミツガシワやヌマガヤ、モウセンゴケ、イワショウブなどの湿生植物の生育する湿原の風景もみられる。 これら火山性の台地を深く浸食して流れる苗代川や宿波川、天谷川では、水辺がツルヨシやチシマザサに覆われ、人が踏み入ることも困難な状況となっている。 一方、水田風景が広がる蒜山原に目を向けてみると、旭川をはじめ、明蓮川や内海谷川などの河川には、ツルヨシが茂る河原や中州、ワンド域が形成され、生き物が多く棲んでいそうな水辺の景観がみられるほか、バイカモが川面にゆれる蒜山地域ならでは川辺の風景もみられる。 また、旭川の周囲に開けた水田域には集落が散在し、集落内を流れる水路では、オオサンショウウオの姿をみることもできるといわれている。 なお、旭川の河岸には段丘崖がみられるが、段丘崖の高さはおおむね10〜20mで、コナラやヤマザクラなどからなる落葉樹林となっており、段丘面上はダイコン畑やススキ野原、カラマツの点在する牧野が開けている。 このような流域の土地利用が起因し、蒜山原を流れる旭川の川底には、土砂がヘドロ状に堆積し、有機物による水質の汚濁や富栄養化が進んでいるとされている。 2−2)八束地区(旧八束村)の河川概況@ 地形・地質からみた八束地区(旧八束村)の河川環境 八束地区(旧八束村)は、川上地区(旧川上村)と同じように、旭川の上流域に位置し、村を流れる河川としては、旭川をはじめ、その支流の玉田川、中谷川、上井川、三谷川、宇田川、戸田川、宮城川、戸谷川、高松川、山城川などがあげられる。これら山地に源を発した旭川の支流は、蒜山三座の裾野に発達した谷筋や麓の農村域を瀬となって流れ、蒜山原を流れる旭川本流へと注ぐ。 玉田川をはじめ、中谷川、上井川など、蒜山三座の裾野域を流れる旭川の支流での河川勾配は小さく、これらの川は、クロボコと呼ばれる火山灰に覆われた裾野台地を浸食し、蒜山原の水田域へと流れ、旭川と合流する。 地域が旭川の上流域にあたるため、川幅の大きな河川の景観はみられないが、蒜山原を流れる旭川では、瀬と淵、ワンドや中州が形成され、生態系の豊かさを感じさせる川辺の景観が形成されている。とくに、太古の時代に大きな湖であった蒜山原の水田農村域を大きく蛇行して流れる旭川の水辺には、川岸にツルヨシやヤナギの生える湿地帯が形成され、自然性豊かな河川の風景をみることができる。 なお、旭川の河畔には、蒜山原を流れる旭川の景観を特徴づける地形として河岸段丘がみられ、旭川の岸辺には高さ10〜20mの段丘崖が形成されている。 蒜山三座に源を発する谷川の上流域には、渓流の環境がよくみられ、中蒜山の麓に位置する塩釜では、とうとうと湧水が流れ出しているほか、蒜山原に注ぐ上井川や三谷川などの上流に渓流域が形成されている。 しかし、村内に大きな落差をもって流れる急流や瀑布はみられない。また、急斜面に挟まれた深い谷がみられる場所は、蒜山三座の渓流域に限られ、中和村、湯原町にみられるような峡谷や渓谷は発達していない。一方、火山地形が広く分布する八束村では、谷筋や山裾に湧水がみられ、犬挟峠の湿原や東湿原をはじめ玉田川、中谷川など蒜山三座山麓の谷筋や山裾などに小規模な湿地が形成されている。 八束村の北部には、海抜1,200mの上蒜山を最高峰として、中蒜山、下蒜山からなる蒜山三座がそびえているが、火山性の山地であるため、ここに降った雨は浸透し、伏流水となって麓に湧出する。この代表的なものが塩釜の湧水であり、湿地もこのように伏流水が湧く場所によく形成される。 A植生・土地利用からみた八束地区(旧八束村)の河川環境 八束地区(旧八束村)の土地利用は、基本的には川上地区(旧川上村)と同じで、渓流域をなす山地が山林、台地上や山裾が牧野、その谷筋は原野や農地となっており、蒜山原に出ると河川の周囲には水田や集落が開けている。蒜山三座の渓流域に広がる山林の多くは、コナラやミズナラ、サワグルミ、トチノキなどからなる落葉樹林であるが、上井川や三谷川の上流域では、水辺がツルヨシやチシマザサに覆われ、人が踏み入ることも困難な状況となっている。 一方、南部東部の丘陵地では比較的スギ・ヒノキの植林やアカマツ林が多くみられ、そこを流れる谷川の周囲には、里山の環境もみられる。 放牧場や高原野菜畑の景観が広がる蒜山三座の山麓についてみると、上蒜山から発生する沢では、細流に沿ってトチノキやミズナラなどからなる渓畔林が帯状に残されており、渓流の自然が保全されている。 また、百合原と呼ばれる上蒜山の火山麓扇状地上には、放牧場や牧草地などの牧野の風景が広がっており、その谷筋には、玉田川や中谷川などの水辺がみられ、ハンノキの疎林やミズゴケ、コオニユリ、ノハナショウブが生育する湿地帯も形成されている。 このように、村の北部に火山性山地がそびえる八束村では、犬挟峠の湿原や東湿原などにミツガシワやヌマガヤ、モウセンゴケ、イワショウブなどの湿生植物の生育する湿地帯がみられるほか、蒜山三座から発生する沢や谷筋に小規模な湿地が形成され、湿生樹が疎林をなす湿原の風景もみられる。 蒜山三座に源を発する河川は、裾野の台地を浸食し、蒜山原の水田域へと流れ出る。 裾野台地の上にはダイコン畑や飼料畑、ススキ野原が開け、河川は浸食崖の下を流れる。この浸食崖はコナラやヤマザクラなどからなる落葉樹林に被われた斜面となっており、林床はシマキザサが覆っている。崖下を流れる川の水辺には、ツルヨシが茂り、その周囲にはススキ草原や水田がみられる。 また、田園風景が広がる蒜山原に目を向けてみると、かつて大きな湖であった蒜山盆地の平野を流れる旭川では、ツルヨシの茂る河原にワンドや中州が形成され、生態系の豊かさを感じさせる川辺の景観が形成されている。 ヌマガヤオーダー・ヨシクラスの湿地帯は、旭川の水辺にもみられ、花園から宮田あたりにかけての水田農村域を大きく蛇行して流れる旭川では、川岸にツルヨシやヤナギの生える湿地帯が形成され、自然性豊かな河川の風景をみることができる。 2−3)中和地区(旧中和村)の河川概況@地形・地質からみた中和地区(旧中和村)の河川環境 中和地区(旧中和村)は旭川支流の下和川の流域に位置し、地域を流れる河川としては、湯原湖の湖水域を含む旭川、下和川のほかに、その支流である津黒川、山乗川、植杉川、浜子川などがあげられる。これら山地に源を発した下和川の支流は、山地に深い峡谷を形成し、急流となって山麓に流れ下り、また、丘陵地の谷間に湿地を形成し、山麓の水田域を緩やかに流れ、下和川へと注ぐ。 とくに、山乗川、植杉川など、東南部の山岳域を流れる谷川での河川勾配は大きく、深い峡谷や瀑布、渓谷を形成しながら、山地の谷間を滝川となって流れ下り、麓の水田域へと流れ出す。植杉川は、一ノ茅の集落域に近い樹林域を滝川となって流れており、山乗川は数段の瀑布となって津黒山の山腹(南斜面)を流れ、これら植杉川、山乗川の中流には植杉渓谷、不動滝などの名勝もみられる。 また、南部のブナ林やスギ・ヒノキの植林の広がる植林域では、植杉川、山乗川の渓流がみられ、一ノ茅付近では早瀬となって流れている植杉川の清流がみられる。 このように、渓流となって中和村を流れる河川は、村の中央部を流れる下和川とその支流の植杉川、山乗川などの谷川である。渓流が多くみられるのは地形が急峻な村の南東部で、下和川は荒井付近を早瀬となって流れ、自然の川岸も多く残っている。 一方、村の北部西部の丘陵域を流れる浜子川や大原川での河川勾配は小さく、その周囲には、大原の湿原をはじめとして、谷筋や山裾などに小規模な湿地が多く形成されている。 村が下和川の源流域にあたるため、平野をゆったりと流れる川幅の大きな河川の水辺はみられないが、麓の水田農村域を流れる下和川では、早瀬や淵が形成され、昔ながらの川の形態をみることができる。 また、八束地区(旧八束村)との境界付近から湯原湖にかけての丘陵の谷間を流れる旭川では、瀬となる部分が連続し、湯原湖のバックウォーターとなる初和付近では、春に雪解けの水をたたえ増水した旭川の湖沼的な風景がみられる。 なお、村内に湯原湖の湖沼域を除き、湖や沼、ため池、貯水池など大きな面積の止水域はみられず、湖水の景色を形成する旭川の水辺は、湖沼景観に乏しい蒜山地域にあって地域を代表する湖の水辺である。 A植生・土地利用からみた中和地区(旧中和村)の河川環境 中和地区(旧中和村)の土地利用は、渓流域をなす山地や丘陵地が山林、台地上や山裾が畑地、その谷筋は原野や水田となっており、下和川の周囲には水田や集落が開けている。 渓流域をなす山地は、村の南東部にみられ、そこに広がる山林の多くは、コナラやカエデ、サワグルミ、トチノキなどからなる落葉樹林とスギ・ヒノキの植林で、山乗川や植杉川の源流域には自然性豊かなブナ林の環境もみられる。 これら山地を深く浸食し、峡谷や滝川を形成して流れる植杉川や山乗川の渓流域では、渓流に沿った斜面に生えるコナラやカエデなどの広葉樹が水辺に枝を張り、自然性豊かな渓流の環境がみられる。 なお、このような渓流は、急峻な地形のため、人が近づくことも困難な状況となっているが、山乗渓谷ではリュウキンカなど氷河時代の依存種の生育も確認できる。 また、スギ・ヒノキの植林は、植杉川、山乗川の渓流域にも多くみられ、渓流の周囲には、薄暗い人工林の環境が広がっている。一方、北部や西部に広がる丘陵地上には、アカマツ林を主とする二次林が多くみられ、谷筋には湿地や水田、原野が分布している。 このように、山裾に湿地の環境が形成されやすい中和村の北部西部では、大原の湿原をはじめとして、湿地の環境が多くみられ、ハンノキが疎林をなす原野の風景や、ミツガシワやヌマガヤ、ミミカキグサ、サギソウ、オタカラコウなどの湿生植物の生育する湿原の風景もみられる。 とくに、なだらかな地形をなす村北部の丘陵域では、台地をなす丘陵地上に、ダイコン畑や牧草地などの高原畑の風景が広がっており、その谷筋には、浜子川や吉田川などの水辺がみられ、ミツガシワやミズゴケが生育する湿地も形成されている。 山麓の水田域に目を向けてみると、下和川をはじめ、津黒川や植杉川などの河川には、ツルヨシが茂る河原やワンド域が形成され、昔ながらの川辺の景観がみられる。 とくに、下和川が清流となって流れる周囲には、水田農村の風景が開け、浜子川や吉田川が水路のように緩やかに流れいる。ここでは、セリやツルヨシが育つ水辺にトンボや魚の姿を多くみることもできる。 次に旭川の水辺に目を向けてみると、湯原湖のバックウォーターとなる初和付近に、ヤナギが水上林を形成する印象深い湖畔の風景がみられるほか、その上流には川辺に沿ってヤナギが疎林状に生え、自然性豊かな川の景色が育っている。 2―4)湯原地区(旧湯原町)の河川概況@湯原地区(旧湯原町)の自然概況 1)湯原地区(旧湯原町)の気象・水象 湯原地区(旧湯原町)の気候は、冬季寒冷であり、年間平均気温11.5℃となっている。年間降水量は1,727mm、月間平均降水量は145.5mmで、冬季には積雪もある。 湯原地区(旧湯原町)は、岡山県の三大河川の一つである旭川の上流域に位置し、同河川の本流が町内を貫流している。町内には昭和30年に建設された高さ74m、幅194mの湯原ダムによってせき止められたダム湖があるほか、藤森川、粟谷川、鉄山川、社川、田羽根川、釘貫川などが旭川に注いでいる。 2)湯原地区(旧湯原町)の地形・地質 湯原地区(旧湯原町)は岡山県の北部に位置し、標高は350〜1,103m(耳スエ山)の範囲で、中国脊梁山地に属する。町のほぼ中央部には旭川が流れ、町境には耳スエ山(1,102.9m)、入道山(1,040m)、霰ケ山(1,074m)、櫃ケ山(954m)など1,000m前後の山々がある。 3)湯原地区(旧湯原町)の植生・土地利用 湯原地区(旧湯原町)も川上地区・八束地区・中和地区と同様、冷温帯林と暖温帯林の両方の特徴をもつ植生が見られる。現在残されている自然植生としては、旭川沿いの渓谷斜面にみられるモミや常緑カシ類が優占するシキミ−モミ群集や、湯原ダム直下の渓谷斜面にみられるケヤキ、サワグルミ、ハルニレ、イロハモミジなどの夏緑広葉樹の優占するケヤキ群落、二子山から雨乞山に続く尾根沿いにみられるクロモジ−ブナ群集などがあげられる。 二子山山頂付近や丸山から耳スエ山の山頂、山腹にみられるブナ・ミズナラ群落は、ブナ林の択伐林で面積的には多くないが自然植生に近い植生域として資源性が高く評価される。 櫃ケ山より北に広がる山麓部など所々にみられるコナラ林は、アベマキ−コナラ群集のうちで最も高海抜地(400〜600m)に分布し、ヤブツバキクラス域からブナクラス域への移行帯の二次林であるとされている。 町内の山地、山腹には広く植林がなされ、櫃ヶ山や雨乞山の山腹、山裾は、ほとんどがスギ・ヒノキの植林に覆われている。また、熊居峠周辺で一部カラマツ植林がみられる。 湯原湖北岸や摺鉢山付近の山地山腹に見られる広範囲の伐跡群落はヤブツバキクラスの代償植生で、耳スエ山の山腹に見られるタラノキ−クマイチゴ群落はブナクラスの代償植生である。 なお、周囲を山で囲まれている湯原地区(旧湯原町)は平野部が希少である。旭川の本支流周辺にみられるわずかな平地は、おもに水田と宅地に利用されている。 また、湯原ダム下の河川沿いには温泉街が並んでいる。 畑地はおもに山麓にみられる。 大型のレジャー施設としては、久見にゴルフ場が見られる。ゴルフ場以外にはとりたてて大規模なレジャー施設は見あたらない。 植林地は山麓や山裾で多くみられ、ほとんどがスギ・ヒノキ植林である。また、湖畔周辺や山麓の所々で竹林がみられる。 このほか、湯原地区(旧湯原町)内には、塚原古墳やタタラ遺跡、牧古墳などの古墳、遺跡などが随所にみられる。 A 地形・地質からみた湯原地区(旧湯原町)の河川環境 湯原地区(旧湯原町)では、町の中心を旭川が流れ、ダムによって大きな湖沼域が形成されている。町を流れる河川としては、旭川をはじめ、その支流の鉄山川、藤森川、釘貫川、社川、田羽根川、白根川などがあげられる。 これら、湯原地区(旧湯原町)を流れる河川は、その入り組んだ山地の地形を反映して、微妙な形で分水界が生じているため、多くの谷川が合流しながら旭川へと向かって流れるといった複雑な水系網を形成している。 山地に源を発した旭川の支流は、山地を谷川となって流れ下り、麓の農村域へと流れ出るた後、流れの早い瀬を形成しながら、山麓の水田域を流れ、旭川へと合流する。 このように、蒜山原を流れる河川に比べ、老年期の山地を急流となって流れ下る湯原町の河川には、砂礫が多く堆積し、清流らしい川の景観が多くみられる。 とくに、町の東部南部に位置する霞ケ山、摺鉢山、櫃ケ山などの山地の地形は険しく、古屋川の上流にみられる不動滝をはじめ、渓流や瀑布をなす渓流がみられ、スギ・ヒノキの植林や棚田が広がる櫃ケ山北麓では、山道に沿って昔ながらの谷川の景観がみられる。 このように、渓谷を形成しながら湯原町を流れる河川は、町の東部南部の山地を流れる白根川、古屋川、福井川などの渓流である。渓流が多くみられるのは地形が急峻な町の南東部で、旭川は摺鉢山の西麓を、鉄山川は櫃ケ山の北麓を早瀬となって流れ下っている。 湯原地区(旧湯原町)が中国山地の山間域にあたるため、平野をゆったりと流れる川幅の大きな河川の水辺はみられないが、町の北部にダム湖の湖沼域が形成され、大きな水域がみられる。また、湯原第二堰堤より下流を流れる旭川では、急流の河川形態をなしながら、早瀬と淵、ワンドや中州が形成され、生態系の豊かさを感じさせる川辺の景観が形成されている。 一方、町の北西部の農村域を流れる藤森川や粟谷川での河川勾配は比較的小さく、その上流には、芦谷川や大杉川、皿谷川などの急渓流が多くみられ、山地の環境へと続いている。 これら町の北西部を流れる河川は、急流の多い湯原町にあって、山地の低地を比較的緩かに流れ、湯原湖の湖水域へと流れ込んでいる。 なお、湯原町には、川上村や八束村、中和村にみられるような湿地帯はなく、ダム湖以外に、湖沼やため池などの水辺は少ない。 B 植生・土地利用からみた湯原地区(旧湯原町)の河川環境 湯原地区(旧湯原町)の土地利用は、渓流域をなす山地や丘陵地が山林、河川に沿った低平地や山裾が水田となっており、旭川や鉄山川、粟谷川、田羽根川の周囲には水田や集落が開けている。 渓流域をなす山地は、町のほぼ全域にみられ、そこに広がる山林の多くは、コナラやクリ、シデ、カエデなどからなる落葉樹林とスギ・ヒノキの植林で、大月川の源流域には自然性豊かなブナ林の環境もみられる。 これら山地を深く浸食し、瀑布や滝川を形成して流れる古屋川や大谷川の渓流域では、渓流に沿った斜面に生えるコナラやカエデなどの広葉樹が広く分布し、自然性豊かな渓谷の環境がみられる。なお、湯原町にみられる広葉樹林は、比較的若く、里山をなす二次林の環境としてとらえることができるが、このような落葉樹の環境は、河川沿いには少なく、山地の斜面に多くみることができる。 旭川や鉄山川などの河川近くには、スギの人工林が多くみられるが、川岸に育つケヤキやエノキ、ヤナギなどの河畔樹が川面に枝を張り出している。スギ・ヒノキの植林は、櫃ケ山の北麓などにも多くみられ、自然性が低下し、薄暗い植林地の中を谷川が流れている。 一方、湯原湖の湖畔にみられる山林の多くは、コナラやクリ、クヌギ、アベマキからなる落葉樹林で、湖に面して季節感豊かな二次林の環境がみられる。 また、町の北西部の農村域を流れる藤森川や粟谷川などの源流となる山地や丘陵地上には伐採跡地に育つ落葉低木林やアカマツ林、ミズナラ林など里山的な環境も多くみられ、その谷筋を芦谷川や大杉川、皿谷川などが急渓流となって流れている。 次に山麓を流れる河川の水辺に目を向けてみると、旭川や鉄山川、粟谷川、田羽根川など川岸に水田や集落がみられる河川では、ツルヨシが茂る河原やワンド域が形成され、水辺の生き物にとって良好な生息空間となっていると思われる河川の景観がみられる。 とくに、山地の谷間を清流となって流れる旭川の川辺には、砂礫が多く堆積し、ワンド域が多く形成され、ヤナギの萌芽林が生育するなど自然性豊かな河川の風景が開けている。 また、湯原第二堰堤の水辺では、川岸に竹薮が広がり、薮の中にヤナギやエノキ、ケヤキなどの川辺の樹木が多くみられるなど、急流が多い湯原町の河川にあって、静かな流れの川の風景がみられる。 3 河川環境調査真庭市北部の河川について環境調査を行い、オオサンショウウオの生息にとって好ましい水辺環境を探そう。 3−1生物多様性調査の概要オオサンショウウオは、太古(6千万年以上前ともされている)より生き続ける「生きた化石」と呼ばれる世界最大の両生類で、国の特別天然記念物に指定されている。 しかし、これまで河川生態系全体としての保護保全について十分な対策が講じられてきたとはいえず、オオサンショウウオの棲息環境は年を追うごとに悪化してきた。 オオサンショウウオは夜行性の動物で、夜、川へ出てきて餌を取る。昼間はあまり動かない。しかし、最近では、昼間に見つけられることも多くなっており、これは、河川改修などにより隠れ家がなくなっていることに起因しているともいわれている。 生態系の保全に配慮した川づくりや河川工法が行われるようになった今日であるが、これまで、農山村地域においても行政主体の画一的な河川工事、砂防工事などにより、人と川との生活の中での係わりによって維持されていた生態系や生物多様性も、人と川との係わりが希薄化する中で急速に低下してきた。 くわえて、背後にひろがる山地も人工林化が進み、手入れ不足で植林地が荒廃する中、オオサンショウウオが棲息する水辺の環境も変わってきた。 ここでは、中国山地において天然記念物「オオサンショウウオ生息地」の指定されている岡山県真庭市北部地域について調査状況をまとめている。 (1)調査研究・活動の目的 岡山県北部に位置する真庭地域は、岡山県三大河川の一つ旭川の上流域(源流含む)にあり、その河川域は国により天然記念物「オオサンショウウオ生息地」の指定を受けており、オオサンショウウオを頂点とする地域固有の生態系が維持されている。 本活動は、オオサンショウウオの生息する河川水辺について、植生、水生生物の生息状況、河川形状、人の手の加わり方を調査し、生物多様性を把握することで、人とオオサンショウウオとの川を通じての係わりを解明し、河川生態系の保全を目的に「人と川との共生関係」や「河川工事における地域住民参加型の野生生物保護工法」を考えるにあたって必要な環境情報を収集するものである。 (2)調査研究・活動の方法 本活動は、以下の作業で進める @オオサンショウウオ生息に係るヒアリング調査、 A調査対象水域の選定、 B生息地の河川状況(人為的河川環境を含む)の調査、 C水辺自然環境調査、 Dオオサンショウウオ・ビオトープの特性把握、 E河川(生物多様性)再生方策の提案 調査結果に基づき、オオサンショウウオを含む水辺野生生物の保護域を考察するとともに、地元自治体と地域住民を対象に2005年7月28日に現地見学会「オオサンショウウオ棲息地"蒜山の森"現地視察会」を実施した。 また、オオサンショウウオ生息地保全に向けての組織づくりや環境保全対策については、地元自治体(真庭市環境課)や地元教育委員会(真庭市文化財課)と協議を行っているほか、オオサンショウウオの会(オオサンショウウオ調査・研究・保護の全国ネットワーク)に加盟参加し、情報交流を行っている。 3−2調査研究・活動の結果(1)聞き取り調査によるオオサンショウウオの生息状況 1)川上地区(旧川上村)における生息概況 聞き取りによると、川上地区(旧川上村)を流れる河川全体にオオサンショウウオの生息がみられるということであるが、中でも、旭川本流には最も多く生息しているとのことである。 また、オオサンショウウオは水の冷たい所を好むされ、湯船川や明蓮川、苗代川など北西部地域を流れる河川の上流域に多く生息しているという聞き取り結果も得られた。 一方で、水がきれいすぎても、エサになる魚が少ないので、かえってその生息が少なくなってしまうため、湯船川上流での生息個体は少ないという意見も聞かれた。 また、蒜山インターチェンジの排水が流れ込む川、蒜山ハイツの排水が流れ込む目名木川あるいは、蒜山小学校やの中学校の排水の流れ込む河川はその生息にとってよくないとの意見も聞かれた。 また、オオサンショウウオの好物であるサワガニの多い所には、その生息は多いとされ、田部川の上流には、サワガニも多く、オオサンショウウオも多く生息しているとのことであった。 2)八束地区(旧八束村)における生息概況 聞き取りによる共通の認識は、八束村でもオオサンショウウオは、どの川にも生息しており、村内のほぼ全域に生息しているとのことであった。 近年、一時減少しかけていたオオサンショウウオも、少しづつ増え出したようで、川の上流でオオサンショウウオの幼生(4〜5p)をよく見かけられるようになったとのことである。 また、八束村でもオオサンショウウオの産卵場所は、水のきれいな川の上流域でわき水が出ているところの下が多いとのことである。さらに、中谷川の上流や、井筒川の上流で産卵場所を確認をすることができたという具体的な情報も得られた。 基本的に河川の下、中流域は護岸改修がおこなわれていたり、中流域に落差工や砂防堰堤があるため、それぞれの河川の上流域の方に多く生息しているとの意見も聞かれた。 また、民家、店舗等人工的構造物による排水の影響も、各河川の下流域にその生息が少ない原因としてあげることができるとのことである。 そして、どの蒜山三座の裾野を流れるどの河川も村の中心部となる高原線より下流では、オオサンショウウオが減少してきているとのことである。 なお、この原因として、大根の生産が影響を与えているとの意見も聞かれ、雨で河川に流れ込む肥料の窒素と土砂の問題であるとして、特にその影響を受けているのが西部地域の玉田川と中谷川であるという意見も聞かれた。 また、高松川はオオサンショウウオの生息に最も適した川なので、是非とも保存してほしいとの意見も聞かれた。 3)中和地区(旧中和村)における生息概況 中和地区(旧中和村)でもオオサンショウウオは全域の河川に生息しているとのことで、八束地区(旧八束村)と比較しても生息環境は、中和村の方がよいという意見が聞かれた。 また、オオサンショウウオは、水の冷たくきれいな上流域を好むので北部地域に多く生息し南部地域になるほど、その生息は減少するという意見も聞かれた。 また、村の南東部を流れる植杉川や山乗川などの渓谷をなす河川には中流域に、大きな砂防堰堤や滝があるため、オオサンショウウオの遡上ができなくなり、それより上流にはほとんど姿をみることができないとのことである。 しかし、ダム湖にはかなりの体長の大きなものがいると予想され、その個体数も多また、生息状況からみて中和村では、ヒノキやスギの植林地木の多い谷には生息が少なく、広葉樹林の谷の方が多く生息しているという意見も聞くことができた。 4)湯原地区(旧湯原町)における生息概況 湯原地区(旧湯原町)内を流れる各河川は、比較的急峻な地形を呈した山地部の谷筋と、面積は少ないものの旭川沿いやその支流周辺に平野部もみられる。オオサンショウウオは以前から繰り返し、山間の谷川で産卵して孵化した後に、その本流や旭川に下って生活していたとのことである。 当地域は平野部の少ない地形的な条件から、以前は多くの個体が広く生息分布していたとのことであったが、平野部を生活の場として、また山間部を産業活性の地として利用する人間との共存が問題となってきているようである。このため、山地の植林化や河川の改修、農地の改変などの影響によって、現在では上流と下流の遡行を阻害する構造物の出現による分断や生息環境が減少し、生息域と個体数が共に減ってしまったとのことである。 現在の湯原地区(旧湯原町)でのオオサンショウウオの生息状況としては、旭川では大型の個体が多く湯原ダムを含む全域で生息が認められ、その支流の比較的流域面積が広く自然の野渓を維持している鉄山川、粟谷川、藤森川、田羽根川には多くの個体が現在も生息しているとのことであった。 また、これらの支流においては、比較的谷筋も小規模な上に地形が急峻で段差もみられ、近年の人為的な植林や農地の改良などによって、河川の形質が改変されて遡上を阻害する構造物の設置や産卵地の消失などによる生息環境の悪化が進んでいるとのことであり、小数の個体が限られた地域でのみ産卵活動を行っているに過ぎないとの情報でもあった。 当地の地形的な面からは、旭川下流の仲間川、大庭皿川、峪谷川、大滝川、大谷川(都喜)、向井谷川などには以前からオオサンショウウオの生息が認められていないようであった。さらに、各地域に残るタタラ製鉄跡の影響によって生息が認められなくなってしまったという情報も日尾谷川などから入手できた。 このほかでは、生息や遡上が阻害される現状の中で、河川改修が行われて生息情報が途絶えてしまった社川水系とは逆に、釘貫川などではオオサンショウウオが遡行可能な河川構造への配慮として、河床に自然石を使用したり、堰堤に遡上が可能な魚道を設置するなどの配慮もなされているとのことであった。 3−3)生息地における河川の自然状況1)川上地区(旧川上村)の河川改修状況 川上地区(旧川上村)で自然の川の形態がよく残る場所は、明蓮川、湯船川をはじめとする北部と西部の渓流域や牧野の谷筋を中心に広くみられ、集落の近くを除き比較的自然に近い状態で、河川の環境が保全されている。 また、集落の近くでも、改修された護岸には、石積のものが多くみられ、その川辺にはバイカモやミゾソバなどの水辺の植物が生育している。さらに、河川改修が進んでいる旭川でも、一部にブロック護岸がみられるものの、落葉樹林に被われた段丘崖などに自然の岸辺がよく残されており、自然性豊かな川の風景がみられる。 なお、周囲に水田が開ける谷川では、水田へと水を引く頭首工が多く設けられ、魚類の遡上には支障があるものの、その岸には、石積の護岸が多くみられ、自然に近い状態で水辺の環境は保たれている。 しかし、村の南部を流れる河川では、三方コンクリートによる改修も進み、粟住川や田部川などの一部では、川の自然は失われている。 山地の渓流域では、砂防工事や治山工事がなされ、明蓮川、湯船川、白髪川などの上流域では、大きなコンクリート堰堤が建設され、堰堤がつくる止水域や湿地をみることができ、その上流には自然の野渓をなす渓流と自然林の環境がみられる。 2)八束地区(旧八束村)の河川改修状況 八束地区(旧八束村)で自然の川の形態がよく残る場所は、玉田川、上井川の上流域をはじめとする県道蒜山高原線以北の山麓域で、蒜山三座から発生する沢や谷筋を中心に広くみられ、集落から離れた渓流域で河川の環境がよく保全されている。 また、集落の近くでも、昔に改修された護岸には、石積のものが多くみられ、その川辺にはツルヨシやミゾソバなどの水辺の植物が生育している。 さらに、河川改修が進んでいる旭川でも、一部にブロック護岸がみられるものの、落葉樹林に被われた段丘崖や川辺の湿原などに自然の岸辺がよく残されており、自然性豊かな川の風景がみられる。なお、周囲に水田が開ける谷川では、水田へと水を引く頭首工が多く設けられ、魚類の遡上には支障があるものの、その岸には、石積の護岸が多くみられ、自然に近い状態で水辺の環境は保たれている。 しかし、村の南部を流れる河川では、三面コンクリートによる改修も進み、山城川や野田川などの一部では、川の自然は失われている。 また、裾野台地を浸食し、蒜山原へと流れ出る河川でも、旭川へと注ぐ下流域や中流域の一部がコンクリート護岸化し、河川の自然性は低下している。 さらに、山地の渓流域では、砂防工事や治山工事がなされ、三谷川などの上流域ででは、自然の野渓をなす渓流と自然林の環境がみられるものの、大きなコンクリート堰堤が建設され、渓流の生態系は分断されている。 3)中和地区(旧中和村)の河川改修状況 中和地区(旧中和村)で自然の川の形態がよく残る場所は、丘陵の間を蛇行して流れる旭川の川辺と、山乗川、植杉川などの渓谷域で、初和川でも荒井付近など山地の間を渓流となって流れる場所では、自然に近い状態で、河川の自然が残されている。 周囲に水田が開ける津黒川や山乗川などの谷川では、水田へと水を引く頭首工が多く設けられ、魚類の遡上には支障があるものの、その岸は、地山や土羽となって梅やスモモが植えられていたり、石積で護岸がなされるなどして、自然の川に近い状態で川辺の環境は保たれている。 また、集落の近くでも、昔に改修された護岸には、石積のものが多くみられ、その川辺にはセリやミゾソバなどの水辺の植物が生育している。さらに、河川改修が進んでいる下和川でも、一部にブロック護岸がみられるものの、昔に石積で護岸化した場所では、植生も回復し、生態系の豊かさを感じさせる川の風景がみられる。 一方、近年、道路の新設や拡幅、河川工事、圃場整備などによって護岸が改修された場所では、ブロック護岸やコンクリート護岸によって河川の自然は損なわれている。このような場所は、下和川や植杉川の水辺を中心に水田域に多くみられる。とくに、村の北部を流れる下和川では、三方コンクリートによる改修も進み、別所や常藤などの一部では、川の自然は失われている。 また、山地の渓流域では、砂防工事や治山工事がなされ、津黒川の上流域、初和川では、大きなコクリート堰堤が建設されているため、川の生態系は分断されている。 4)湯原地区(旧湯原町)の河川改修状況 湯原地区(旧湯原町)は、昭和56年7月に集中豪雨にみまわれ、激甚災害の指定を受けている。このため、町全域において災害復旧工事が行われ、護岸の改修が進められてきた。 湯原町で自然の川の形態がよく残る場所は、東部の山地を流れ下る白根川、古屋川、向井谷川などの渓谷域や、町の北西部を流れる粟谷川上流の渓流域で、ここでは自然に近い状態で、河川の形態が残されている。 周囲に水田や集落が開ける粟谷川や鉄山川などの河川では、一部はブロック護岸など改修がなされているものの、岸の片方は、地山の斜面となっていたり、土羽や石積で護岸がなされるなどして、自然の川に近い状態で川辺の環境は保たれている。なお、昔に石積で護岸をした場所では、植生も回復し、生態系の豊かさを感じさせる川の風景がみられる。 また、旭川でも河畔を走る国道の対岸に自然の岸が残り、清流らしい川の景色をみることができる。 一方、近年、災害復旧による水路の改修や、道路の拡幅、河川の改修工事などによる護岸の改修がなされた場所では、ブロック護岸やコンクリート護岸によって河川の自然は損なわれている。このような場所は、田羽根川や社川、三倉谷川など集落域近くに多くみられる。とくに、藤森川、山田川、三倉谷川、竹谷川、五市谷川など災害復旧で、三面コンクリートによる改修が進んだ河川では、川の自然は失われている。 また、山地の渓流域では、砂防工事や治山工事がなされているほか、高速道路の建設による大規模な地形の改変がなされ、谷川の生態系は分断されている。 3−4)調査研究・活動の成果「特別天然記念物オオサンショウウオ生息地生物多様性調査」を実施する中で、鳥取大学蒜山演習林「蒜山の森」の中を流れる谷川(苗代川)及びその背後地となる森林域(コナラ林、ミズナラ林、ブナ林)が生態系保全区(サンクチュアリー)の候補地の一つとして評価された。 この区域は、面積にして400haを超える森林渓流域であり、オオサンショウウオやクマタカを頂点とする良好な生態系が残されていると考えられた。 評価結果をもって鳥取大学および地元真庭市教育委員会に協力を求めたところ、生態系保全区(サンクチュアリー)の指定および調査協力のみだけなく、伝統的な自然工法による自然再生工事など保護対策事業や環境教育事業についても協働での取り組みが可能となった。 さらに、本調査研究を踏まえ、オオサンショウウオを含む河川生態系の保全について、地元自治体(真庭市)とも協議し、環境基本計画の策定において検討内容としたいと考えている。 3−5)調査研究・活動の考察調査研究・活動を実施する中で、オオサンショウウオの生態については未だ不明な部分が多いことがわかった。 とりわけ、オオサンショウウオ幼生について確認例が少なく、幼生期にどのような環境に潜んでいるか明確にされていない。 従来、オオサンショウウオの保護は、河川域での成体の移動路(遡上路)と営巣地の確保を中心に進めてられてきたが、本調査において、幼生の生息環境は、山間水田脇の小水路などドジョウやメダカなど生息する水辺環境である可能性が示唆された。 そして、今後、オオサンショウウオの生息環境の保護をはかるためには、河川域・渓流域のみならず、周辺水田域や隣接樹林域においても、生物多様性の保全が求められており、今後は、オオサンショウウオ幼生期の生態を解明し、農地・農業用水路においても保護対策を検討していくことが必要とされている。 4.ハンザキ・サンクチュアリー素晴らしい自然が残る渓流域を聖域(サンクチュアリー)として確保し、オオサンショウウオの安住の地となる清流環境を後世に引き継ごう。 川の自然の豊かさは、護岸や河川構造物の状況のほか、水辺の植生や流域の環境によるところが大きく、背後にひろがる山林(主に人工林)が荒廃する中、オオサンショウウオの生息環境も悪化してきた。 浸食の進んだ老年期の山地である中国山地、日本アルプス(中部地方)に代表される迫力のある山岳景観は少なく、これまで中国山地は観光的魅力に乏しいとされてきた。 しかし、芦津渓や山乗渓谷の峡谷にみるように、連続する瀑布や巨樹がアクセントとなす渓谷域も多く、里山的要素の強い中国山地にあって、原生自然的な要素が多くみられる秘境域も存在している。 また、里山の人気が高まり、「自然との共生」が求められるようになった今日、人里近くにあって、人と自然との係わりや「温もり」を感じさせる静かな清流は固有の自然文化遺産でもあることから、良好な自然環境の残る清流域およびその背後地となる林野域(森林・草原など)を生態系保全再生区(ハンザキ・サンクチュアリー)として保全再生していく活動をエコツーリズムとして進めていくことで、環境保全再生活動と観光資源活用との両立をはかる。 4−1 ハンザキ・サンクチュアリー事業の概要(1)ハンザキ・サンクチュアリー事業の目的 岡山県北部に位置する真庭地域は、岡山県三大河川の一つ旭川の上流域(源流含む)にあり、その河川域は国により「特別天然記念物オオサンショウウオ生息地」の指定を受けており、オオサンショウウオを頂点とする地域固有の生態系が維持され、オオサンショウウオは「ハンザキ」と呼ばれている。 本事業は、オオサンショウウオ生息地である真庭市において、良好な自然環境の残る河川域及びその背後地となる林野域(森林・草原など)を生態系保全区(ハンザキ・サンクチュアリー)としての永続的な保全をはかるとともに、生物多様性が低下した区域について、自然再生活動を進めながら、広域的な視野でオオサンショウウオなどを頂点とする清流生態系保全システムの確立をはかる。 あわせて、オオサンショウウオなどの保護活動を住民・NPO等と行政との協働事業として推進する自然保護ネットワークづくりをはかる。 (2)ハンザキ・サンクチュアリー事業の必要性 1)事業の重要性 オオサンショウウオは、6千万年前の太古より生き続ける「生きた化石」と呼ばれる世界最大の両生類で、固体が国の特別天然記念物に指定されている。真庭地域では固体のみならず、その生息の場である河川も「棲息地」として特別天然記念物に指定されており、河川水辺の環境保全と生態系の保護・生物多様性の回復が求められている。しかし、河川生態系全体としての保護保全については十分な対策が講じられておらず、その棲息環境は年々悪化していることから、良好な自然環境の残る河川域及びその背後地となる林野域(森林・草原など)を生態系保全区(ハンザキ・サンクチュアリー)に指定し、永続的な生息環境保全を行なうとともに、広域的な視野でオオサンショウウオを頂点とする清流生態系保全システムの確立をはかることは重要である。 2)事業の緊急性 生態系の保全に配慮した川づくりや河川工法が行われるようになった今日であるが、オオサンショウウオが棲息する中山間地域の河川においては、コンクリート二次製品に頼った河川生態系工事が主流で、人と川との生活の中での係わりによって維持されていた生物多様性も、人と川との係わりが希薄化する中で急速に低下している。 とりわけ、真庭郡北部を流れる河川には、オオサンショウウオが数多く棲息しているとされているが、生物多様性を確保する河川工法は十分とは言えず、年を追うにつれて棲息環境は減少しており、棲息個体(とくに幼生)も激減していると危惧されることから、生態系保全区(サンクチュアリー)に指定し、営巣環境の復元のほか、河川水辺及びその背後地となる森林域での自然再生などの積極的な保護対策が求められている。 4−2 ハンザキ・サンクチュアリー事業の内容真庭遺産研究会では、晴れの国野生生物研究会、真庭自然を観察する会と連携し、岡山県真庭地域北部を流れる河川について、オオサンショウウオの繁殖地について聞き取り調査を実施するとともに、移動(遡上)を阻害する河川構造物(砂防堰堤や井堰)について分布や構造について調査を行ってきた。 また、これと平行して備中川、鉄山川、旭川上流域について水生生物の生息調査を行うともに、新庄川、下和川、旭川について地元住民より今と昔の河川環境の変化について聞き取り調査を実施し、伝統的河川土木工法や昔見られた淵、河畔林などを検証しているほか、平成14年9月、11月と郡民を対象に環境セミナーを開催し、オオサンショウウオの生息状況など中心に河川環境についてその現状と望ましい「ふるさとの川」の現状について報告している。 本事業は、これらの活動および「特別天然記念物オオサンショウウオ生息地生物多様性調査」を受けて、オオサンショウウオ生息地である真庭市において、良好な自然環境の残る河川域及びその背後地となる林野域を生態系保全区(ハンザキ・サンクチュアリー)としての永続的な保全をはかるとともに、生物多様性が低下した区域について、自然再生活動を進めながら、広域的な視野でオオサンショウウオなどを頂点とする清流生態系保全システムの確立をはかるものである。 あわせて、オオサンショウウオなどの保護活動を住民・NPO等と行政との協働事業として推進する自然保護ネットワークづくりをはかることを目的としており、以下の手順で事業を進める。 @生態系保全区(サンクチュアリー)の指定 今後、オオサンショウウオ棲息地における生物多様性調査の結果を受けて、良好な自然環境の残る河川域及びその背後地となる森林域を生態系保全区(サンクチュアリー)およびその候補地に指定する(複数)。 A生態系保全区(サンクチュアリー)での生態系調査 生態系保全区(サンクチュアリー)ごとに、オオサンショウウオを含む野生生物調査(野鳥・小動物・昆虫・水生生物調査)、水辺植生調査を実施し、保全区のオオサンショウウオの生息状況と現況生態系を把握するとともに、ホームページで紹介する。 B生態系保全区(サンクチュアリー)での環境保全計画の策定 生態系保全区(サンクチュアリー)については、野生生物調査を継続的に実施し、その結果を受けて、保全区ごとにオオサンショウウオを頂点とする生態系保護保全計画、自然環境再生計画、森林管理計画を策定する。 Cオオサンショウウオを頂点とする広域清流生態系保全システムの検討 今後、オオサンショウウオの保護や清流生態系保全を目的としたシンポジムや報告会・ワークッショップを開催し、広域的な視野でオオサンショウウオを頂点とする清流生態系保全システムの研究検討を行なう。研究検討にあっては地元大学(鳥取大学)や自然保護研究機関と連携し、長期的な視点・広域的な視点から生態系保全を考える。 D生態系保全区(サンクチュアリー)での自然再生作業の実施 保全区候補地ごとに策定された環境保全計画を受けて、渓畔林の再生や生態系分断箇所について、モデル的(試行的)に多自然型自然工法・伝統的河川工法によるエコ改修を行ない、事後にモニタリング調査を実施し、その成果を検証する。 E協働型オオサンショウウオ保護・棲息地保全ネットワークの形成 住民・県民を対象にオオサンショウウオ棲息地現地視察会や清流トレッキング会を開催するとともに、オオサンショウウオ棲息地や生態系保全区(サンクチュアリー)の環境を紹介した報告書や小冊子、電子パンフレットを作成することで、地域(真庭市)の内部に、大学(鳥取大学)などの研究機関と連携した生態系保全のネットワークづくりを進める予定である。 4−3 期待される事業の効果これまでオオサンショウウオは、地域住民にとって、愛されて保護される対象ではなかったが、清流環境保全についての地域的な関心は高く、良好な自然環境の残る河川域及びその背後地となる林野域を生態系保全区(ハンザキ・サンクチュアリー)に指定することで、オオサンショウウオを環境指標とする清流環境イメージを確立することができ、自然保護について地域住民の積極的な関与が促され、河川水辺での生物多様性を回復させるグラウンドワーク活動が促進される。 また、ともすれば規制の側面が強かったオオサンショウウオ保護であるが、生態系保全区(ハンザキ・サンクチュアリー)を活用した自然観察会やエコツーリズムを促進することで、オオサンショウウオをシンボルとした自然保護活動・自然再生運動が活発になると期待され、中山間地域において地元住民が係わる新しい野生生物保護の動きも期待できる。 5 里地における川づくり川から自然が失われていく中、オオサンショウウオの生息環境を保全し、川の自然を再生する川づくり工法を考えてみよう。 ここ20年あまりで「里山」という言葉が有名になった。奥山に対して、人里近くにあって人の手が加わった山林あるいは林野域を示す概念である。近年まで普通に見られた里山の環境は、自然と人との共生によって維持されていて、生物多様性の意味からいっても興味深い空間となっている。 それでは、川について目を向けてみよう、農村を流れる川は、河畔に農地が広がり、下流には集落が見られることから、古くから人の手によって管理され、利用されてきた里川(人里の川)であり、川を生活に取り入れた知恵や文化がみられた。 これまでオオサンショウウオは、地域住民にとって、愛されて保護される対象ではなかったが、「ふるさとの川」についての地域的な関心は高く、オオサンショウウオを生物指標(あるいはシンボル)にした清流環境保全活動は、野生生物保護と地域づくり・観光振興を結びつけた地域再生活動となる。 農村域において、オオサンショウウオ保護のために、復元すべき環境は、かつての里山や昔懐かしい「ふるさとの川」の自然と風景である。 5−1 里川の自然と風景昔のままの姿で残る農村の河川は、水辺に棲む生き物にとって貴重な生息環境となっている。水辺に草や木の生える風景は、生態系の豊かさを感じさせ、水辺に育つ植物は、高さ30mにおよぶケヤキやエノキ、ヤナギの高木から、高さ数cmのヒメシダやミズタビラコまで多種で多様な水辺環境をみせ、野鳥や魚、昆虫などの良好なビオトープをつくっている。 真庭市を流れる川には、オオサンショウウオをはじめ、ゲンジボタルやカワセミなど、良好な水辺環境の存在を示す指標生物がよく観察できる。真庭でみられる主なホタルは、ゲンジボタルとヘイケボタルで、ゲンジボタルの幼虫は、流れのある川に棲み、水の底に棲むカワニナという巻き貝を餌とする。ゲンジボタルの棲む川は、水辺に草が生え、それと連続する水田やワンドなどの浅い湿地が必要とされている。 農村の人里を流れる川は、河畔に農地が広がり、近くに集落がみられることから、古くから人の手によって管理され、利用されてきた温もりのある川であり、生活の知恵や文化がみられた。 このような「人里を流れる川」は、畔が石積み護岸、あるいは、スロープ(緩斜面)であった。農家の人たちは、川で洗いものをしたり、水をくむために、そして、農地に水を引くために、石を積んで、水の流れを変えていた。このことが結果的に川の流れに微妙な変化をもたせることになり、小さな瀬や淵、止水域(水だたえ)をつくることにもなっていた。 また、ツルヨシやススキが育つ河原では、牛が遊ばされ、そこに生える草は、家畜の餌になっていた。スロープ上に生える夏草は、刈り取られ、家畜の餌や屋根材として利用されていたため、四季に変化のある風景をみせ、「人里を流れる川」の近くには、多くの種の草花が育っていた。さらに、川沿いの土手に目を向けてみると、川辺に梅や柿の木が植えられ、川面に静かな影を落としていた。 このように「人里を流れる川」では、人と川との生活の中での係わりによって、多様な環境が形成され、それに応じて生物生息環境がみられた。 ここ真庭地域でも、このような昔なつかしい「里川」の環境が年々失われており、ドンコやカワムツ、タカハヤなどの姿はみられるが、昔よく見られたアカザやオヤニラミの姿は最近みられなくなってきた。 魚のほか、水辺に棲む生き物としてカワセミやセグロセキレイ、ヒキガエル、イモリ、ゲンジボタル、オニヤンマ、ギンヤンマ、ニシカワトンボなど多くの生き物を観察することができる。 真庭の川の環境を象徴するカワセミは、平地から山地の河川および湖沼などの水辺に生息するスズメよりやや大きい青い鳥で、コバルトブルーに輝くその姿は、川の宝石と呼ばれることもある。餌となる小魚が生息する水辺と巣をつくるための土崖が生息の条件とされ、一時は河川の水質汚濁による小魚の減少など環境悪化とともに、その生息数が減少している。 また、真庭地域でも、秋にたくさんの赤トンボが飛び回るが、このあたりでみられる赤トンボは、ナツアカネ、アキアカネ、ネアカトンボなどで、夏近くになると、浅い池や田んぼの近くの水路で羽化し、真夏は、高い山にいて、秋になると人里の周りに舞い下りて来ます。そのころは、体の色が真っ赤になっている。 5−2 ビオトープとしてみた里川「人里を流れる川」では、人と川との生活の中での係わりによって、多様な環境が形成され、それに応じて多様な生物生息環境がみられた。 そこは、まさに「川のビオトープ」と呼べる水辺の環境で、民家から排出される適度の有機物は、川に多くの生き物(魚類やオオサンショウウオなどの両生類)を棲まわせる環境をつくることにもなった。水辺の植物は、群落となって小動物の隠れ家となるとともに、有機物や栄養塩類を吸収し、川の水を浄化していた。 石積みの護岸は、その隙間に魚や小動物を住処となり、水を漏出、浸透させるなどして、水環境の変化を緩和していた。 ツルヨシのように背の高い水辺の植物からなる群落の存在は、トンボ類の生息にとって不可欠で、多くのトンボの生息が可能となっている。 また、ニシカワトンボなどの小型のトンボは、オニヤンマなどの大型のトンボから身を隠す意味でも重要である。 ツルヨシ群落やススキ群落のように草むらとなる環境は、小動物がサシバなどの猛禽類から身を隠す上でも重要で、ネズミ類の生息の場となっていることが多い。 なお、川岸にはケヤキ、エノキ、エゴノキが育つ環境がみられるが、川面に枝を張り、水辺に影をつくる樹木の存在は、魚類の生息環境を考える上で重要で、樹木から川に落下する昆虫は魚の餌となる。また、木の葉は川底に積もりカゲロウやカワゲラなど水生昆虫の餌となり、魚の餌となる。 魚の餌は、底生動物や落下昆虫、プランクトン、川底に生える藻で、とくに水生昆虫(底生動物)は、水の中の生態系や食物連鎖を考える上で興味深く、カゲロウやカワゲラなど底生動物は水に落ちた木の葉の分解者である。 カワセミは、清流の指標種とされ、水質が保全され、餌となる魚類が多く棲むことが生息の条件となっている。また、カワセミは木の枝に止まり、水面に滑空して魚を捕らえることから、川岸にそのような木が生えていることが望ましい。 ゲンジボタルは清流の指標種であるが、ヤゴの時代、カワニナを餌として成長し、カワニナは比較的流れが緩やかな場所に棲む。 5−3 保全・再生すべき里川の環境要素真庭地域を流れる河川でも護岸の改修や圃場整備などによって、近年になって水際や河畔の環境も変わっている。また、近年は草刈などの管理が行われていない場所もみられる。 しかし、河畔はほとんどが農地で、調査区域は古くから人の手が加えられた里の川で、一部石積みの部分もみられ、小さな淵や流れの速い深みなど保護すべき環境要素がみられる。 オオサンショウウオの生息する真庭市北部は、瀬が連続する清流域で、河道内を川が緩く蛇行し、中小の礫が堆積している。コンクリートブロックの護岸などが少ない、昔ながらの水辺は、基本的には残すべき環境である。 とくに保護保全すべきものは、岩盤が深く浸食されてできた淵と、河畔の広葉樹林で、岩盤の上に樹木が生え、淵を覆う形となっている場所は、魚にとっては、格好の避難場であり、休息の場、繁殖場となっているものと考えられる。 農村域において、オオサンショウウオ生息地として、復元すべき環境は、かつての「里川」で見られた石積み護岸やスロープ(緩斜面)であり、緩やかに蛇行した川の流れである。そこには、小さな瀬や淵、止水域(水溜まり)が多く見られ、メダカやトンボ類、ヤマセミなどが棲む故郷の川の生態系が回復するであろう。 河川では、蛇行により淵が自然に形成されるが、人里を流れる川においても、いわゆる近自然工法などを用い、河道内で水の流れを緩く蛇行させ、流れが速い部分と遅い部分をつくることによって、小さいながら瀬と淵の環境が形成されるようにする。 河道内で緩やかな蛇行を形成させるために、河床となる面積を広くとるが、用地の関係で、川幅を広げることが困難な場合は、護岸の勾配を急にすることで対応する。この場合、ブロック護岸やコンクリート擁壁を避け、篭マットや石積み護岸で対応することが望ましい。 なお、近年、生態系に配慮した仕様のコンクリート二次製品が用いられることが多いが、コンクリート二次製品はその製造段階および輸送運搬の段階において、地球環境に負荷を与えることが多いほか、画一的な企画品であることから、ビオトープのように、生物生息多様性の観点から、微妙な環境変化を求める工法には対応させにくい。 また、地域の伝統文化を感じさせる林野の風景が広がる農村域や「里川」においては、景観的な違和感を生じさせることが多い。 現地で自然石など工事材料の調達が容易な農村域における河川工事では、篭マット工法あるいは石積み護岸工法、祖朶工法など、自然材を用いた工法を採用する。 とくに、生態系保全区(サンクチュアリー)では、コクリートやコンクリート二次製品の使用を避け、護岸の材料は、自然石や木材などできるだけ現場で調達する。 @河畔林の保全再生 自然林や雑木林の下を流れる清流域がオオサンショウウオの生息環境に適しているとされており、河畔林など、河川水辺に残る広葉樹林を保全し、再生をはかる。 樹林の育つの川岸は、草が茂り、木が根を張るなどしており、多様性のある環境がみられる。このような環境には、野鳥や小動物、昆虫が棲み、落葉樹の下を流れる川には、水生昆虫や魚の餌となる落ち葉、木から落ちた昆虫などが多く、それを求めてやってくるイタチやカワセミ、オニヤンマなど多様な生態系がみられる。 また、川辺に育つ竹林は、小規模なものであっても川面に日陰をつくり、河川の環境に多様性をもたせている。 A淵や深みの保存 真庭市においても、水深1mを超える淵が多く存在しており、魚類の繁殖などの点から保存すべき環境となっている。 とくに淵の部分は上に樹木が育ち、淵に木陰をつくる格好となっており、カワムツやドンコなど多くの魚の避難場や休息の場となっていることから、淵と樹木との一体的な保存を考える。淵の部分は、岩盤となっていることから、工事においては、現況の状態で保存し、改変させないとともに、緩い蛇行を形成させる際に、現況の淵が流れが速い部分となるように設計し、土砂が堆積して淵が埋まらないようにする。 B止水環境の形成 生物生息多様性を高め、多くの生き物が棲むビオトープとして環境復元を行うために、ワンドや水だたえなど、水が溜まり止水域となる環境を形成させる。 止水域の環境は、いわゆる多自然工法などにより、河道内で水の流れを緩く蛇行させるとともに、石組みで水の抵抗をつくり、水だたえ(堰などによって水がたたえる場所)を形成させるなど、水の流れが極端に遅い場所をつくることで形成させる。 このような、止水域のみられる川では、イモリやカエル類などの両生類、トンボ類も多く生息する。 また、河原にワンドや水溜まりの池が形成されることも多く、水辺にヤナギ類が生育する場所では、モリアオガエルの産卵がみられることある。 C河原の保存と形成 河川環境の多様性を高め、小動物の生息環境の確保をはかる上で、河原の保存と形成を行う。河原は、止水域の環境の形成ともに行い、河道内で水の流れを緩く蛇行させるとともに、石組みで水の抵抗をつくるなど、水の流れが極端に遅い場所をつくることで形成させる。 Dスロープ緩斜面の形成 傾斜が緩やかなスロープ斜面を確保することについては、用地の関係で、河床が狭くなることにもなるが、生物生息多様性を高めることや、小動物の水辺へ近寄りやすくすること、川岸の環境に変化をもたせる上で、保存すべき淵の対岸など、断面的に余裕のある場所に確保する。 また、スロープ(緩斜面)は、野芝などを植栽し緑化することがあるが、遷移が進むにつれて、ススキやウツギ、ネムノキなどが自生の植物が生育するようになる。 さらに、草刈や火入れなど、人為的な管理によりスミレ類やチガヤ、秋の七草が咲く草地としての管理も可能である。 Eけもの道の確保 イタチやタヌキなどの小動物が水辺に近づきやすいよう、けもの道となる小動物用の斜路やスロープ(緩斜面)を形成させる。 斜路の幅は50cm以上とし、「里川」としての利用や管理を考慮して、人間が歩けるものを考える。斜路は石積みなどでつくり、河原や止水域の環境に接続する場所に設ける。 E河畔樹の育成 調査区域では、川辺にケヤキやエゾエノキ、エゴノキ、ネムノキ、ウツギなどの樹木が生育しているが、川辺に育ち枝を張る樹木は、水面に木影をつくり落、葉や昆虫を落下させて、河川環境の多様性を高めている。 とくに、水辺に急降下し、魚を補食するカワセミやヤマセミをはじめ、野鳥にとっては重要な環境要素である。 また、「里川」においては、梅やすもも、柿などの果樹がよく植えられており、農村の風景を演出する花木であり、鳥や蝶にとっては食餌木でもあった。 Fヤナギ蛇篭の使用 水際の環境多様性を高め、魚類の生息環境を保全する目的で、ヤナギ(ネコヤナギなど)の枝を挿し込んだ蛇篭や篭マットを使用する。 G石積み護岸の形成 石積み工法での河川工事が行うことで、水辺に多孔質環境の形成され、地下浸透水の循環やヘビ、昆虫類の住処として生物生息多様性が高まる。 真庭では、現況は圃場整備などにより石積みの護岸は一部にしか残されていないが、かつては、美しい石積み護岸が連続し、人為的な管理がなされた「里川」であったと考えられる。河道内には多くの礫がみられる場所もあり、これらを利用すれば、比較的容易に石積み工法での河川工事が行えると考えられる。 工法的には、伝統的な石組みの技術による石積みが望ましいが、アンカーとボルトによって石積みを固定し(アンカー止め自然石工法※)、コンクリートの使用を最小限に抑える方法などで護岸をつくっていく。 6 川を生かしたまちづくりオオサンショウウオをシンボルに、川の自然と懐かしい景観を再生し、自然と共生する地域づくりを考えてみよう。 ここでは、中国山地において、面積の広い割合が天然記念物「オオサンショウウオ生息地」の指定されている岡山県真庭市について構想をまとめている。 6−1 川を生かしたまちづくりの必要性真庭市は特別天然記念物オオサンショウウオ生息地に指定されているが、人と川との係わりが希薄化する中で生物多様性が低下している。加えて、農村の中小河川に求められる生物多様性を確保する河川工法は十分とは言えず、年を追うにつれて棲息環境は減少しており、早急な保護対策が求められている。 とくに、真庭市北部には、オオサンショウウオが数多く棲息しているとされているが、砂防堰堤や落差工などの河川改修工事によって生態系が分断されるなど、その繁殖域は、限られた場所になっていることから、オオサンショウウオが多く生息するとされる水域について、河川形状、植生、水生生物の生息状況、人の手の加わり方などを調査することで、人とオオサンショウウオとの川を通じての係わりを解明し、今後の環境保全と川を生かした地域づくり・まちづくりを考える時期にきている。 オオサンショウウオはそのグロテスクな容貌と、特別天然記念物という格付けにより、真庭地域住民にとって縁遠い存在になってしまい、その保護組織が育っていない。 一方、地域住民の「ふるさとの川」の「思い」は深く、農村において失われつつある清流環境(景観)再生への期待は大きく、清流の自然を保全再生する地域づくり・まちづくりが必要とされている。 一方、農業を中心とした土地利用から発展した市街地は、その大部分が旭川の河畔域に開けており、ここに資産と人口が集中する形態となっている。 また、かんがいのため利用されてきた小川は、市街地の発達とともに、その形態を単なる取・排水路へと変化させた。 河川の整備や利用は、これらの変化に対して早急な対応が求められ、効率を重視した計画が策定され、現在まで整備が行われた結果、洪水の氾濫危険性は減少したものの、依然として洪水氾濫の危険性を有し、かつ氾濫区域内の資産と人口は増大している。 さらに、効率を重視した河川整備は河川流量の減少や平滑化を招き、水質の悪化とともに河川環境に影響を与えている。 とくに、市街地近くでは、河川はまとまった自然の存在する貴重なオープンスペースであり、まちの景観構成上重要な要素である。 したがって、まちづくりとして河川と周辺地域とを一体的に整備し、まちの顔となる良好な水辺空間の創出を図ることが必要とされている。 また、地域や河川の特性を活かした交流ネットワークを構築し、地域間の交流・連携活動や個性豊かな地域づくりを支援するため、親水、自然の学習、情報発信等多機能を有する水辺の交流拠点を整備することも検討すべきであり、こうした活動等を支える人材の交流と育成を進めることも重要である。 6−2 自然共生型“河畔の街づくり”事業中国山地の山間(真庭市北部)を流れる旭川とその支流には、清流を中心に集落が形成されており、人と川との生活の中で関わりを感じさせる風情ある水景色がみられ、そこには太古の昔より特別天然記念物オオサンショウウオが広く生息している。 オオサンショウウオの生息環境となる緑豊かな川の自然を保全再生していくことで、旭川河畔の集落において、清流の自然と共生した静かなで美しい住環境が保全されることが期待される。 また、かつて真庭市南部は、高瀬舟の水運で栄えたが、明治後期以降、河川舟運は鉄道・道路の発達から衰退の一途をたどってきた。 しかし、今後は、地球環境への負荷の低減の観点から、また、都市内の交通渋滞や大量の物資輸送の困難性などの問題の一つの解決策として、さらに、舟による観光やレジャーへの志向の高まりを反映した余暇の活用策として、河川舟運の新たな展開が期待されている。生物多様性調査の成果を踏まえ、オオサンショウウオを環境指標とする人と自然とが共生する川の環境イメージを確立するとともに、人里や集落域における住民参加型の川づくり工法について調査研究を重ね、清流の環境を活かした風情と潤いのある生活空間の形成や生物多様性に富んだ水辺環境の保全再生について調査研究を行う。 これまでの調査記録などをまとめ報告書を作成するとともに、地元教育委員会と連携し、清流環境シンポジウムや里川環境フォーラムなどの報告会を開催し、オオサンショウウオをシンボルに清流の環境を活かした地域づくりについて意見交流をはかる。 真庭地域には旭川を中心に9の町村が開け、2005年3月に9の町村が合併し、新市(真庭市)が発足した。新しい市の誕生を機会に、水辺の自然や河畔の古民家、歴史遺産を活かした街づくりを積極的に展開するための「自然との共生」をテーマとした真庭市・自然共生型“河畔の街づくり”プラン(基本計画)を地域住民参加で策定していく。 近年まで、真庭地域には旭川を中心に9の町村が存在していたが、行政改革の進む中、2005年3月に9の町村が合併し、新市(真庭市)が発足した。そのような地域の歴史の節目の時代に、地域の中心を流れる旭川の自然や河畔の歴史遺産を活かして、川と人が共生する生態系豊かな地域づくりを進め、安心安全で美しい新市(真庭市)の中心街の景観づくりを進めることで、新市住民の「心の結束」と、河川や故郷の自然・歴史を愛する心を育て、「美しい日本の自然と風景の保全再生」と防災安全をはかることを提唱する。 真庭市南部に位置する落合地区(旧落合町)、久世地区(旧久世町)、勝山地区(旧勝山町)は、岡山県中北部の中国山地と吉備高原に挟まれた小盆地に位置し、岡山県三大河川の一つ旭川の河畔に発達した町で、古くから高瀬舟の水運で栄えてきた。 3つの地区は隣接し、3地区の人口を合わせると3万5千人となる。これら3町は、周辺6ヶ町村をまきこむ形で、平成17年3月に合併し、人口5万4千人の市(真庭市)となった。そして、新市(真庭市)の誕生において、落合地区、久世地区、勝山地区の既成市街地は、南部都市交流ゾーンとして新しい市(まち)の中心となる。 これまで、落合地区、久世地区、勝山地区は、それぞれに都市計画や街づくりの構想を策定しているが、市街地が隣接(連続)しているにも関わらず、行政単位が別であったため、個別の行政運営を進めてきたため、必ずしも統一性のある計画となっておらず、めざす街のイメージはそれぞれ違っていた。 一方、落合地区、久世地区、勝山地区は、それぞれ市街地を旭川が流れており、古くから旭川の水運(高瀬舟)で栄えた町で、地域住民は、旭川に対して「熱い思い」と共通の歴史認識をもっており、旭川の水辺を取り込んだ街づくり(都市計画)に期待する声も多い。また、旭川水系は、琵琶湖水系に次いで生息魚の種数が豊富で、全国でも屈指の生物多様性に富んだ水系とされ、その上流域は河川そのものが「特別天然記念物オオサンショウウオ生息地」として国(文化庁)の指定を受けているなど、河川水辺の生態系保全について、ガイドラインづくりも必要となっている。 6−3 真庭における河畔の環境と“まちづくり”(1)河畔の環境概況 旧落合町、旧久世町、旧勝山町、旧北房町からなる真庭市南部は、中国山地と吉備高原の間に開けた農村域で、人口は小盆地をなす旭川の河畔の平野部に集中し、それぞれの町の市街地はこの平野部に発達している。これら市街地の周囲には水田農村域や丘陵域となっていて、静かな農村の環境が保たれている。さらに、旭川の支流をなす備中川、目木川、月田川の河畔にも平地がみられ、集落が発達している。 旧落合町、旧久世町、旧勝山町の人口は、それぞれ1万6千人、1万1千人、9千人であり、「真庭市」の人口は、旭川水系の河畔に集中し、それぞれの街が中心市街地を形成しているが、新市「真庭市」発足にあたって、新しい街づくり(都市計画)と、中心市街地の活性化や魅力アップが期待されている。そして、「自然共生型“河畔の街づくり”」を提唱するにあたり、それぞれの町の市街地、河畔の集落域について環境概況を把握した。 以下、落合地域(落合の市街地および近郊、栗原・鹿田地区、旦土地区)、久世地域(久世の市街地および近郊、目木地区)、勝山地域(勝山の市街地および近郊、月田地区)について、街および集落としての環境概況を示す。 1)落合地域(旧落合町) @落合(垂水・西原)の市街地および近郊 落合の市街地は、旭川の小盆地に発達し、周囲は里山をなす丘陵地帯である。市街地付近で旭川と備中川が合流し、旭川と備中川の水辺には中州やワンド域が見られる。旭川は市街地下流で大きくS字に蛇行している。 旭川の両岸に市街地が形成され、ここからは、北に中国山地の山並を遠望し、南は吉備高原に続く里山丘陵地帯である。市街地に隣接して、里山丘陵である「しめ山」が位置し、垂水の街は「しめ山」の麓に発達している。 落合の市街地は、主に垂水地区と西原地区からなり、市街地には古い民家や神社も残る。この街は、古くから高瀬舟の水運で栄え、豪商屋敷も見られたが、昭和9年の伊勢湾台風で大被害を受け、これより河畔の環境は一変した。現在、旭川の河畔には大きな堤防が築かれ、堤防には桜並木が見られる。 西原地区にJR姫新線の美作落合駅があるほか、中国自動車道の落合インターチェンジは垂水の市街地に隣接する市瀬地区にあり、市街地に人口が集中しているが、長期にわたり、中心市街地が衰退している。 市街地の周囲は丘陵地と水田農村域で、山裾には庄屋屋敷や溜池が見られる。 A栗原・鹿田地区 栗原地区、鹿田地区ともに、旭川の支流備中川の河畔に開けた集落域で、旧国道に沿って家並みが続き、古い民家やかつての造り酒屋も見られる。 栗原、鹿田の町並みの周囲には水田農村地帯が広がり、丘陵地と接している。丘陵地の山裾には河岸段丘が形成され、集落も見られる。 備中川は水田農村域を緩やかに蛇行して流れる河川で、ワンドが多くみられ、両岸には竹薮をなす河畔林が発達し、ヤナギやエノキの高木が育つ。 B旦土地区 旦土地区は、旭川の河畔に発達した集落域で、このあたり、旭川が隆起準平原をなす丘陵地を深く侵食し、河谷を形成して流れている。この付近一帯は、平地は小さく、集落の背後は河谷の急斜面である。 旭川の河谷にはダム湖(旭川湖)の水面が広がり、集落周辺は春に湖畔となる。湖畔には桜が植えられ並木をなし、春の風物詩となっている。旦土の下流には湖畔干潟が形成され、干潟にはヤナギ低木林が広がり、ワンドが見られる。 2)久世地域(旧久世町) C久世の市街地および近郊 人口1万1千人の久世町の市街地は、旭川河畔の小盆地に発達している。市街地の周囲には里山をなす丘陵地や水田農村域が広がり、庄屋屋敷や神社、溜池が見られる。街の背後には、中国山地に連なる丘陵地が控える。市街地付近で旭川が緩やかに蛇行し、旭川の堤防上には桜並木が続く。市街地近くでも旭川の水辺には中州やワンド域が発達し、ヤナギが育っている。 久世の街は、古くより高瀬舟の水運や牛市、商業で栄え、下流は落合の市街地、上流には勝山の市街地が開ける。落合と同じく、昭和9年の伊勢湾台風で街は大被害を受けたが、河畔には古い旅館が見られるほか、街中には古い商家が多く残る。 市街地には、久世町のシンボルとなるフレンチルネッサンス様式の明治建築物(旧遷喬尋常小学校)が管理保存されている。また、街裏を旧出雲街道が通り、旧道沿いに古い民家が家並みをなして残るほか、寺院も多く街中に見られる。 旭川河畔に人口が集中し、JR姫新線の駅もあり、かつてより商業で栄えた街であるが、中心市街地が衰退つつある。 D目木地区 目木地区は、旭川の支流目木川の河畔に開けた水田農村地帯に発達した集落域である。目木川は中国山地の山間を流れ下る清流河川で、堤防に桜が並木状に植えられている。 集落域では、古い街道(旧出雲街道)に沿って家並みが続き、古い民家や豪壮な庄屋屋敷、巨樹も見られる。集落の周囲には水田域が広がり、里山をなす丘陵地と接している。丘陵地の山裾は段丘状になっていて、農地や民家、溜池の水辺がみられる。その麓には、民家が連なり集落が形成されている。 3)勝山地域(旧勝山町) E勝山の市街地および近郊 勝山の市街地は、旭川の谷底平野に発達した城下町で、市街地に隣接して城山、太鼓山の自然緑地が見られる。街の周囲は丘陵山地で、背後(北側)には中国山地の山並が続き、南は吉備高原に続く里山丘陵地帯となっている。 市街地近くで旭川と新庄川が合流し、河川が大きく蛇行しており、一部に水田が見られるが、平地は少ない。旭川の水辺には中州やワンド域が見られ、ヤナギが育っている。 勝山の街は、城下町であるが、高瀬舟の水運でも栄え、旭川の河岸には高瀬舟の発着場跡が今も残り、河畔には古い家並みや白壁の土蔵群が見られる。 市街地には、武家屋敷や古い商家が残り、寺院が連なっているほか、街中を古い街道が通り、風情ある町並みが形成されている。 旭川の左岸に勝山町の市街地が形成され、JR姫新線の駅もあり、町並み保存地区を中心に多くの観光客が訪れるようになったが、街の人口は減少傾向にある。 F月田地区 月田地区は、月田川の河畔に開けた水田農村地帯に発達した集落域で、旧道に沿って家並みが続き、古い民家やかつての造り酒屋、JR姫新線の月田駅も見られる。 集落の周囲には丘陵斜面や月田川の水辺で、静かな山里の環境となっている。丘陵地は緩やかな台地状の地形となっていて、里山の環境や農地が開けている。丘陵地の山裾は段丘状になっていて、農地や民家がみられる。 月田川は、丘陵地の間を緩やかに流れ下る人里の川で、河畔は農地となっているが、月田の集落域では、河畔に昔懐かしい家並みの風景が見られるほか、川に沿ってJR姫新線の鉄道が続いている。 (2)“河の遺産”など自然文化遺産の分布 街づくりを考える上で必要となる資源として、“河の遺産”など自然文化遺産(景観や歴史遺産を含む)や産業資源(中核企業、地場産業、観光など)、人的資源(地区住民、地域づくり団体など)などがあるが、ここでは“河の遺産”を含む自然文化遺産について調査を実施している。 以下、落合地域(落合市街地および近郊、栗原・鹿田地区、旦土地区)、久世地域(久世市街地および近郊、目木地区)、勝山地域(勝山市街地および近郊、月田地区)について、代表的な“河の遺産”など自然文化遺産を示す。 1)落合地域(旧落合町) @落合の市街地および近郊 河川周辺の自然文化遺産
@栗原・鹿田地区
B旦土地区
2)久世地域(旧久世町) @久世の市街地および近郊
A目木地区
3)勝山地域(旧勝山町) @勝山の市街地および近郊
A月田地区
6−4自然共生型「河畔の街づくり」の方向性落合地域(落合市街地および近郊、栗原・鹿田地区、旦土地区)、久世地域(久世市街地および近郊、目木地区)、勝山地域(勝山市街地および近郊、月田地区)に分布する環境資源を活かした街づくりの方向性として、■環境文化の振興と創生、■景観・風景の保全と創生、■生態系・生物多様性の保全、■観光交流による地域振興の4つを考えた。 (1)環境文化の振興と創生 環境文化の振興と創生として、古い建物(建築遺産)や歴史遺産を「環境文化遺産」として位置づけ、市街地および近郊に残る「環境文化遺産」を生かした街づくり(都市計画)を進める。 「環境文化遺産」を環境資源として活用することで、地球環境時代に求められる古き良き時代の環境文化とライフスタイルを創出する。 あわせて、循環型社会の形成という視点で街のあり方を考え、街づくりを環境教育に活かし、街づくりにおいて新しい環境建築のアイデアや技術を導入する。 「環境文化遺産」の認証・認定をはかり、街に残る「環境文化遺産」を景観資源に「美しい街の風景」、「風情ある河畔の風景」を演出する。 建築遺産(古い建物など)を環境文化の振興の拠点施設、交流施設として活用し、エコミュージアムの発想で街づくりを進め、環境文化遺産を巡る散策コースの設定と美観の形成する。 (2)景観・風景の保全と創生 景観・風景の保全と創生として、風景をなす建築遺産や歴史遺産をグラウンドワーク活動によって保全活用したり、並木の植樹や石積みによる護岸改修など、「環境文化遺産」の保全創出による景観形成や風景づくりを推進する。 市街地および近郊に残る「環境文化遺産」を景観資源に、住民・行政・企業の協働(パートナーシップ)により、「美しい街の風景」、「風情ある河畔の風景」を演出する。 河川水辺の景観を生かした街づくりや、シンボルとなる「環境文化遺産」をランドマークに街や集落の景観づくりを推進する。 街区や集落において、堤防の桜並木など河畔の風物詩を楽しむライフスタイルを街づくりに取り入れ、河川水辺の景観保全・風景づくりを住民主体で展開する。 さらには、日露戦争当時の新庄村の「がいせん桜」に例を見るように、未来に向けて新しい「環境文化遺産」の創出をはかる。 (3)生態系・生物多様性の保全 生態系・生物多様性の保全として、旭川の水辺環境を生かした緑豊かな街の風景づくりを進める。 ここでは、昔懐かしい川や里山の風景の再生によるエコロジカルな街づくりを推進し、街づくり(都市計画)における生態系・生物多様性の保全をはかることで、緑豊かな街づくりによる生態系の保全と保健保養性の保全を進める。 さらには、河畔樹や水辺植生の保全による河川生態系の連続性の保全し、街を取り囲む里山丘陵域での広葉樹林や溜池の保全による生物多様性の保全する。 あわせて、河川水辺、公園緑地、里山丘陵地、街中樹木、農地など緑の連続性の確保するともに、河畔樹の保存・育成や多自然型川づくり工法、近自然川づくり工法による河川生態系の保全をはかり、街と川、里山で生態系が連続するビオトープコリドー「水と緑の回廊」の形成する。 (4)観光交流による地域振興 観光交流による地域振興として、「環境文化遺産」を観光資源、交流施設として保全活用し、農村に残る「環境文化遺産」を巡る観光、グリーン・ツーリズムを振興することで、田園や里山の自然と風物詩を楽しむことのできる農村型の街づくりを進める。 あわせて、「田舎暮らし」に憧れる都市生活者に好まれる街づくりや、オルタナティブ・ツーリズムに対応した街づくりを進め、観光交流拠点の整備を行う。 ここでは、カメラウォークなど観光活動・文化活動の発想を街づくりに導入するとともに、「環境文化遺産」や農村生活文化のオルタナティブ・ツーリズム活用をはかる。 そして、どこか懐かしく田舎(農村)を感じさせる街景観の形成させるなど、来訪者に好印象を与える街の風景づくり・美観形成をはかるとともに、都市と農村との共生対流に対応した田舎型の街づくり、交流拠点整備を進める。 6−5自然共生型「河畔の街づくり」の基本構想(1)全体計画の検討“河の遺産”を生かした「旭川河畔景観まちづくり」協働型観光交流事業は、真庭地域全体を対象に考えるが、ここでは、真庭市南部について行っている自然文化遺産(真庭遺産)調査をもとに、全体計画について検討を行った。 今後は、北部地域で進めているオオンサンショウウオ生息地生物多様性調査などを検討に加え、全体計画を明確にしていく予定である。 以下、落合地域(落合市街地および近郊、栗原・鹿田地区、旦土地区)、久世地域(久世市街地および近郊、目木地区)、勝山地域(勝山市街地および近郊、月田地区)の環境活用を念頭に、全体計画を検討しており、以下の4つ空間づくりが考えられた。 空間づくりについては、英国のグラウンドワーク・トラスト制度に習い、市民・企業・行政が連携する協働(パートナーシップ)事業として推進することとしている。 ■エコミュージアムとしての河畔空間づくり ■グラウンドワーク(協働)活動拠点づくり ■桜並木などによるビオトープコリドーづくり ■グリーンツーリズムに対応する空間づくり 1)エコミュージアムとしての河畔空間づくり 環境文化の振興と創生をはかるにあたって、旭川河畔の市街地および近郊域全体をエコミュージアム空間(河のエコミュージアム)として街づくりを進め、以下の内容で事業展開をはかる。 ●高瀬舟を再建し、歴史学習や観光交流イベントなどで活用する。 ●高瀬舟の発着場など歴史遺産をサテライト(見学施設)として再生活用する。 ●旧遷喬尋常小学校などの市街地の遺産的建造物をコア(中心)施設として活用する。 ●遺産的建造物を文化交流施設、環境学習拠点、市民活動拠点として再生活用する。 ●中心市街地の遺産的建造物を中心に街全体を公園化していく。 ●公園化は景観の保全、美観の形成、園地整備、散策路の整備として行う。 ●遺産的建造物をランドマークに街の美観づくりを進める。 ●旧庄屋屋敷など遺産的建造物をサテライト(見学施設)として整備活用する。 ●遺産的建造物や歴史遺産を活かして街を含む地区全域を公園化していく。 ●遺産的建造物や歴史遺産を掘り起こし、見学周遊ルートを開拓する。 ●老朽化した公共施設は環境建築の技術で改修し、街の景観デザインを整える。 2)グラウンドワーク活動の拠点づくり 旭川河畔の自然や景観・風景の保全と創生をはかるにあたって、河に近い市街地および近郊域についてグラウンドワーク活動を展開するための拠点づくりを進め、以下の内容で事業展開をはかる。 ●河畔にあって風情ある水景色を演出する桜並木など風景木を保存し、育成する。 ●河畔に近い街や集落域において環境改善や保全管理が必要とされる空間を探し出す。 ●水辺景観の演出によって街や集落の魅力が高まる空間を探し出す。 ●地域住民や建築関係者に呼びかけ、河畔の街や地域の景観デザインを考える。 ●遺産的建造物や巨樹、歴史遺産を巡る周遊散策ルートの景観を保全し、演出する。 ●堤防の桜並木など河畔の風物詩を楽しむ空間を整備する。 ●河畔の残る遺産的建造物を地域住民で保存活用する。 ●河川水辺や里山の自然を巡る自然歩道のコース設定と整備をはかる。 ●河川水辺の自然を生かした河畔緑地公園の整備を進める。 ●河畔に近い山裾農地や里山の自然を生かした近郊ピクニック園地の整備を進める。 ●市街地にあって改善が必要とされる河川水辺について自然や風景の再生をはかる。 3)桜並木などによるビオトープコリドーづくり 生態系・生物多様性の保全をはかるにあたって、街と川、里山で生態系が連続するビオトープコリドー「水と緑の回廊」の形成を進め、以下の内容で事業展開をはかる。 ●桜並木やヤナギなど風景木の保存・育成による河川周辺での風物詩を演出する。 ●街や集落内を流れる河川での石積み護岸など伝統的工法による川づくりを進める。 ●河川水辺を自然とふれあえる公園空間として活用する。 ●ヤナギ水辺林や草原の管理保存による河川水辺での生物多様性の保全をはかる。 ●梅や李、桜などの植樹・育成による農地周辺での自然風物詩の演出をはかる。 ●学校周辺の空き地を活用したビオトープ生態自然園づくりをはかる。 ●巨樹や並木、街路樹など街や集落内に育つ樹木の保存をはかる。 ●休耕田や荒廃植林を活用した里山ビオトープ公園づくりをはかる。 ●街を取り囲む里山丘陵域での里山風景の再生による生物多様性の保全をはかる。 ●街路や文化施設など公共施設空間の樹木緑化を進める。 4)グリーンツーリズムに対応する空間づくり 観光交流による地域振興をはかるにあたって、グリーン・ツーリズムなど都市と農村との共生交流を進め、以下の内容で事業展開をはかる。 ●大庄屋の屋敷などの遺産的建造物を都市農村交流施設として再生活用する。 ●河畔近くの街や集落に残る遺産的建造物や歴史遺産を巡る観光周遊ルートを設定する。 ●河畔市街地を取り囲む里山丘陵域の農地をエコロジー市民農園として活用する。 ●美しい農村風景の眺望とビユーポイント、眺望ルートの景観保全をはかる。 ●河川水辺や里山の環境を生かした近郊ピクニック園地の整備をはかる。 ●河川水辺や里山の自然と農村風物詩を巡る散策コースの設定を進める。 ●桜、梅、李、桃などの花樹による近郊農村風景の演出をはかる。 ●河畔周辺に残る遺産的建造物や巨樹を農村ランドマークとした景観づくりを進める。 ●市街地河畔に都市と農村の文化交流ゾーンを設定し、景観的な演出をはかる。 ●河畔に近い旧街道の景観を保全し、観光散策コースとして活用する。 (2)地区計画の検討 ここでは、真庭市南部について行っている自然文化遺産(真庭遺産)調査をもとに、地区計画について検討を行った。 今後は、北部地域で進めているオオンサンショウウオ生息地生物多様性調査などを検討に加え、方向性を明確にしていく予定である。 以下、落合地域(落合市街地および近郊、栗原・鹿田地区、旦土地区)、久世地域(久世市街地および近郊、目木地区)、勝山地域(勝山市街地および近郊、月田地区)について、地区計画を検討している。 地区計画になると、ソフト的な内容に加えて施設整備や環境再生など、資金経済的な課題のでてくるが、まずは、理想とする河畔の環境像を明確にすることからはじめている。 今後、資金経済的に問題も浮上してくるが、調査検討を進める中で、実現可能なものから取り組み、「夢は捨てない」ことにする。 大切なことは、今ある自然文化遺産をいかにして、後世に残して伝えていくことであると考えている。 1)落合地域(旧落合町) @落合の市街地および近郊 旭川の水量も豊富で、鮎釣りが盛んである。 また、花火大会や「いかだ」ラリー大会が行われるように旭川の観光利用がはかられている。 ここは高瀬舟の水運などで栄えた街であり、かつては豪商旧金田家など、大きな商家もみられたことから、高瀬舟を再建し、観光交流イベントなどでの活用をはかる。 将来的には豪商旧金田家(遺産的建造物)を復元再生し、エコミュージアムのコア(中心)施設として整備活用し、文化交流施設、環境学習拠点、市民活動拠点として活用する。 また、復元された豪商旧金田家(遺産的建造物)を中心に街全体を公園化していく。 高瀬舟の発着場などを復元し、歴史遺産としてサテライト(見学施設)活用する。 老朽化した公共施設は環境建築の技術で改修し、街の景観デザインを整える。 堤防の桜並木など河畔の風物詩を楽しむ空間を整備する。 旧妹尾酒造や躬行邸などの遺産的建造物を地域住民で保存活用する。 街を流れる河川での石積み護岸など伝統的工法による川づくりを進めとともに、ヤナギ水辺林や草原の管理保存による河川水辺での生物多様性の保全をはかる。 あわせて、河川水辺や里山の自然を巡る自然歩道のコース設定と整備をはかるとともに、旭川や備中川の河川水辺の自然を生かした河畔緑地公園の整備を進め、河川水辺を自然とふれあえる公園空間として活用する。 梅や李、桜などの植樹・育成による農地周辺での自然風物詩の演出をはかり、桜、梅、李、桃などの花樹による近郊農村風景の演出をはかるとともに、街を取り囲む里山丘陵域の農地をエコロジー市民農園として活用する。 あわせて、河川水辺や里山の自然と農村風物詩を巡る散策コースの設定を進め、これら環境を生かした近郊ピクニック園地の整備をはかる。 街を取り囲む里山丘陵域での里山風景の再生による生物多様性の保全をはかるほか、学校周辺の空き地を活用したビオトープ生態自然園づくりをはかり、生態系を保全する。 街路や文化施設など公共施設空間の樹木緑化を進める。 躬行邸などの遺産的建造物を都市農村交流施設として修復活用するとともに、市街地に都市と農村の文化交流ゾーンを設定し、景観的な演出をはかる。
@栗原・鹿田地区 小出邸など旧庄屋屋敷など遺産的建造物をサテライト(見学施設)として整備活用するとともに、遺産的建造物や巨樹、歴史遺産を巡る周遊散策ルートの景観を保全し、演出する。 ここでは、桜並木やヤナギなど風景木の保存・育成による河川周辺での自然風物詩を演出するとともに、集落の周辺に残る遺産的建造物や巨樹、歴史遺産を巡る観光周遊ルートを設定する。 河川での石積み護岸など伝統的工法による川づくりを進めとともに、ヤナギ水辺林や草原の管理保存による河川水辺での生物多様性の保全をはかる。 あわせて、河川水辺や里山の自然を巡る自然歩道のコース設定と整備をはかるとともに、備中川の河川水辺の自然を生かした河畔緑地公園の整備を進め、河川水辺を自然とふれあえる公園空間として活用する。 また、梅や李、桜などの植樹・育成による農地周辺での自然風物詩の演出をはかり、桜、梅、李、桃などの花樹による近郊農村風景の演出をはかるとともに、街を取り囲む里山丘陵域の農地をエコロジー市民農園として活用する。 あわせて、河川水辺や里山の自然と農村風物詩を巡る散策コースの設定を進め、これら環境を生かした近郊ピクニック園地の整備をはかる。
B旦土地区 旦土伊藤邸などの遺産的建造物を都市農村交流施設として修復活用するとともに、都市と農村の文化交流ゾーンを設定し、景観的な演出をはかる。 高瀬舟の発着場などを復元し、歴史遺産としてサテライト(見学施設)活用する。 堤防の桜並木など河畔の風物詩を楽しむ空間を整備する。 旧国米家の土蔵群や旦土伊藤邸などの遺産的建造物を地域住民で保存活用する。 ヤナギ水辺林や草原の管理保存による河川水辺での生物多様性の保全をはかるとともに、旭川湖の自然を生かした湖畔緑地公園の整備を進め、湖畔域を自然とふれあえる公園空間として活用する。
2)久世地域(旧久世町) @久世の市街地および近郊 旧遷喬尋常小学校をランドマークに街の美観づくりを進める。 また、同旧小学校をエコミュージアムのコア(中心)施設として整備活用し、文化交流施設、環境学習拠点、市民活動拠点として活用するとともに、市街地に都市と農村の文化交流ゾーンを設定し、景観的な演出をはかる。 堤防の桜並木など河畔の風物詩を楽しむ空間を整備するほか、高瀬舟の発着場などを復元し、歴史遺産としてサテライト(見学施設)活用する。 ここでは、石積み護岸など伝統的工法による旭川の景観改善を進めとともに、ヤナギ水辺林や草原の管理保存による河川水辺での生物多様性の保全をはかる。 街路や文化施設など公共施設空間の樹木緑化を進めるとともに、中心市街地の遺産的建造物を中心に街全体を公園化していく。
三坂川など街を流れる河川で環境が悪化した場所については、グランドワーク活動により街の美観づくりを進める。 あわせて、河川水辺や里山の自然を巡る自然歩道のコース設定と整備をはかるとともに、旭川の河川水辺の自然を生かした河畔緑地公園の整備を進め、河川水辺を自然とふれあえる公園空間として活用する。 梅や李、桜などの植樹・育成による農地周辺での自然風物詩の演出をはかり、桜、梅、李、桃などの花樹による近郊農村風景の演出をはかるとともに、街を取り囲む里山丘陵域の農地をエコロジー市民農園として活用する。 あわせて、河川水辺や里山の自然と農村風物詩を巡る散策コースの設定を進め、これら環境を生かした近郊ピクニック園地の整備をはかる。 老朽化した公共施設は環境建築の技術で改修し、街の景観デザインを整える。 美しい河畔の水田農村集落の眺望とビユーポイント、眺望ルートの景観保全をはかる。 街を取り囲む里山丘陵域での里山風景の再生による生物多様性の保全をはかるほか、学校周辺の空き地を活用したビオトープ生態自然園づくりをはかり、生態系を保全する。 福井邸など旧庄屋屋敷など遺産的建造物をサテライト(見学施設)として整備活用するとろもに、旧街道の景観を保全し、観光散策コースとして活用する。 A目木地区 目木構(昔の大庄屋の屋敷)などの遺産的建造物を都市農村交流施設として修復活用するとともに、都市と農村の文化交流ゾーンを設定し、景観的な演出をはかるとともに、旧街道の景観を保全し、観光散策コースとして活用する。 梅や李、桜などの植樹・育成による農地周辺での自然風物詩の演出をはかり、桜、梅、李、桃などの花樹による近郊農村風景の演出をはかるとともに、里山丘陵域の農地をエコロジー市民農園として活用する。 あわせて、近郊ピクニック園地の整備をはかる。
3)勝山地域(旧勝山町) @勝山の市街地および近郊 美しい河畔の家並み風景の眺望とビユーポイント、眺望ルートの景観保全をはかる。 城下町や旧街道の景観を保全し、観光散策コースとして活用する。 また、旧清友邸醤油蔵を復元再生し、エコミュージアムのコア(中心)施設として整備活用し、文化交流施設、環境学習拠点、市民活動拠点として活用するとともに、市街地に都市と農村の文化交流ゾーンを設定し、景観的な演出をはかる。 また、復元された文化往来館「ひしお」(旧清友邸醤油蔵)を中心に街全体を公園化していく。 高瀬舟の発着場を歴史遺産としてサテライト(見学施設)活用する。 街を流れる河川での石積み護岸など伝統的工法による川づくりを進めとともに、ヤナギ水辺林や草原の管理保存による河川水辺での生物多様性の保全をはかる。 あわせて、河川水辺や里山の自然を巡る自然歩道のコース設定と整備をはかるとともに、旭川や備中川の河川水辺の自然を生かした河畔緑地公園の整備を進め、河川水辺を自然とふれあえる公園空間として活用する。
老朽化した公共施設は環境建築の技術で改修し、街の景観デザインを整える。 武家屋敷などの遺産的建造物をランドマークに街の美観づくりを進めるとともに、高瀬舟の発着場など歴史遺産をサテライト(見学施設)として整備活用する。 遺産的建造物や歴史遺産を活かして街を含む地区全域を公園化していく。 地域住民や建築関係者に呼びかけ、街や地域の景観デザインを考える。 遺産的建造物や巨樹、歴史遺産を巡る周遊散策ルートの景観を保全し、演出する。 遺産的建造物は地域住民で保存活用する。 梅や李、桜などの植樹・育成による農地周辺での自然風物詩の演出をはかり、桜、梅、李、桃などの花樹による近郊農村風景の演出をはかるとともに、河川水辺や里山の自然と農村風物詩を巡る散策コースの設定を進める。 A月田地区 美しい河畔の家並み風景の眺望とビユーポイント、眺望ルートの景観保全をはかる。 旧中井酒造酒蔵などの遺産的建造物を都市農村交流施設として修復活用するとともに、都市と農村の文化交流ゾーンを設定し、景観的な演出をはかるとともに、旧街道の景観を保全し、観光散策コースとして活用する。 梅や李、桜などの植樹・育成による農地周辺での自然風物詩の演出をはかり、桜、梅、李、桃などの花樹による近郊農村風景の演出をはかるとともに、里山丘陵域の農地をエコロジー市民農園として活用する。 あわせて、近郊ピクニック園地の整備をはかる。
6−6 今後の取り組み真庭地域におけるオオサンショウウオを地域資源とした自然環境再生の取り組みを実践モデルに中国山地における生物多様性の保全再生を進めていく。 人里近くにあって、人と自然との係わりや「温もり」を感じさせる静かな清流は固有の自然文化遺産でもあることから、良好な自然環境の残る清流域およびその背後地となる林野域を生態系保全再生区(ハンザキ・サンクチュアリー)として保全再生していく活動をエコツーリズムとして進めていくことで、環境保全再生活動と観光資源活用との両立をはかる。 あわせて、河川水辺を中心に自然を再生するともに、古い建物を保存活用しながら、風情豊かな河畔の水景色を演出し、河川ビオトープ空間をグリーンベルトとして取り込む水害に強い街づくり(街区計画)を進めようというものであり、オオサンショウウオなど水辺の生き物をシンボルにした“地域づくり”でもある。 河川法の改正や自然再生促進法、景観法の成立などもあり、地域住民を対象とした自然観察会や環境フォーラム、地域づくりの勉強会、ワークショップの開催を継続するとともに、地域住民の自然保護や景観保全への意識高揚と啓発を目的に、特別天然記念物のオオサンショウウオをシンボルにした清流ワークショップイベントを開催することで、川と人との暮らしの中での係わりを考える。 このような活動を通じて、河川の水辺を活かした自然再生型まちづくりの取り組みにより、住民の「心の結束」と、オオサンショウウオの棲む清流など、河川や故郷の自然・歴史を愛する心を育て、「美しい日本の自然と風景の保全再生」をはかっていく。 そして、中国山地において、「自然との共生」という地球環境時代に求められる価値観のもと、住民発案のもとに進めることで、中山間地(農村)における新しい「グラウンドワーク型(協働型)地域づくり」のスタイルを確立させていく。 |