ふるさと清流自然学校

 
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真庭地域「ふるさと清流自然学校」環境学習プログラム




1.真庭地域で実施する「ふるさと清流自然学校」の考え方





中国山地では、河川を中心に豊かな生態系がみられる。しかし、その生態系は、原生自然的な環境だけでなく、人と川との生活の中の係わりによって形成された半自然的な水辺環境にもみられ、オオサンショウウオも人と同じフィールドに生きてきた。

オオサンショウウオは、中国山地の山地から里山地帯にかけての清流域に広く生息しているとされているが、水中生活を送る生き物であり、寿命も長く、夜行性であることから、地域住民でさえその生態や生息状況を知る人は少ない。

本事業(ふるさと清流自然学校)の主たる活動地である岡山県真庭市の北部は、昭和29年に文化庁の天然記念物「オオサンショウウオ生息地」の指定を受けている。国(文化庁)から「オオサンショウウオ生息地」として天然記念物指定を受けている地域は、全国に3箇所あり、岡山県真庭市北部における生息指定地は、その中で圧倒的に面積が広く生息個体数も多く、全国一のオオサンショウウオ生息地とされてきた。

オオサンショウウオは、6千万年前の太古より生き続ける「生きた化石」と呼ばれる両生類で、真庭市北部(川上・八束・中和・湯原地区)では固体のみならず、その生息の場である河川も「棲息地」として天然記念物に指定されており、河川水辺の環境保全と生態系保全・生物多様性の回復が求められている。

真庭地域を流れる旭川は、全国屈指の生息魚類種数が多い川とされている。くわえて、古くから旭川の水運(高瀬舟)で栄えた地域であることから、河畔には多くの歴史文化遺産が残り、文化的で風情のある水景色がみられる。

これら天然記念物「オオサンショウウオ生息地」に指定された旭川水辺の清流環境、および河畔に残る自然歴史遺産を活用した体験メニュー、環境学習プログラムを作成し、河川を利用した環境学習地域づくりを事業展開するとともに、河川をシンボルとした環境観光まちづくりを進める。

旭川周辺では、河川水辺および河畔にみられる自然や美しい風景、歴史文化遺産などの「河の遺産」の有効活用による河川を生かした地域づくり「かわまちづくり」を目的とし、あわせて、河と人との係わりをテーマとした環境学習の推進による環境共生社会、循環型社会の構築、河川の観光利用を目的とする。河川の観光利用では、環境学習プログラムを活かしたリバーツーリズムを進め、地域住民が主体的に参加するグラウンドワーク(協働)型の観光交流活動を展開していくことで、市民・住民の「ふるさとの川」への関心を高め、清流環境の保全を進めていく。

旭川の源となるその背後地に目を向けてみると、中国山地は浸食が進んだ老年期の山地で、近年まで薪炭林や草原・牧野(採草地、放牧地)など里山的要素の強い環境が多くみられ、昔懐かしい山里の風景や生活文化が今なお残されている。

とくに、岡山県側は、県境をなす山地の稜線(分水嶺)付近まで、なだらかな高原地帯となっており、湿地帯が形成されている場所も多くみられた。薪炭林や草原・牧野の多くは、人工林や雑木林へと変わっている。また、県境付近まで人里や農地となっている場所も多く、そこには、谷川の清流を中心に集落が形成されており、人と川との生活の中で関わりを感じさせる風情ある水景色がみられる。

鳥取県側は、岡山県に比べ、比較的険しい地形となっており、芦津渓(智頭町)など山地渓谷は、中国山地にあって原生自然的な要素が多くみられる秘境域であり、深い峡谷と発達した自然林がみられ、ブナ・スギ天然林、トチノキやサワグルミからなる渓畔林、ブナやミズナラからなる落葉樹林が生物多様性を高めている。

大山・蒜山一帯は中国地方にあって変化に富んだ火山地形となっており、大山には地獄谷(琴浦町)などの深い峡谷や放射谷が形成されている。

このような環境の中国山地にあって、岡山県真庭市北部(旧川上村、旧八束村、旧中和村、旧湯原町)は、国によって天然記念物「オオサンショウウオ生息地」の地域指定を受けており、世界最大の両生類であるオオサンショウウオを頂点とする地域固有の生態系が維持されてきたが、その生息環境は年々悪化している。

また、美しいブナの天然林を身にまとい山麓の街や農村に豊かな水と自然の恵みをもたらす名峰「伯耆大山」。大山は水と森の山であり、美しい日本の名峰である。大山に広く分布するブナ林は、西日本最大級の面積を誇り、多くの野生生物を生かし、山麓に緑豊かな農地を発達させている。大山の自然や山麓に暮らす人の生活文化を知ることは、森を知ることでもある。

真庭地域「ふるさと清流自然学校」では、中国山地および清流「旭川」の素晴らしい自然環境を十分活かし、子どもたちに水と自然の大切さを体感してもらい、中国山地の楽しい体験・思い出として、大切に心に残してもらう。

そのために、「中国山地の自然」および「人と自然」、「水と森」について、真庭地域の地を自然学校として活用し、楽しみながら学び、水や森、自然の大切さについて体感してもらう。

子どもたちの体験活動事業・環境学習事業を考える場合、その安全かつ感動的に活動できる環境とフィールドが必要であり、体験内容(体験メニュー)はその環境の魅力を最大限活かしたものとする。

真庭地域は、自然環境と景観が優れており、その良好な環境を活かした体験学習メニューづくりを行い、開催時期や気候条件、対象となる子どもの年齢や興味に応じて、プログラムづくりを進めることとする。



2.真庭地域にみる「ふるさと清流自然学校」のフィールド





真庭地域およびその周辺域において「ふるさと清流自然学校」のフィールドとなりうる環境を求めると、@河川・谷川、A渓流・渓畔林、B原生林(ブナ林)、C水田農村域、D人里(農村集落域)、E草原・湿原、F里山雑木林、G高原牧野・・・など多様な環境が考えられる。

@河川・谷川・・・水の流れの力強さを感じ、水の循環を学ぶ環境

河川は、川遊び、魚採り、水生生物の観察、水質調査など「水」をテーマとした環境学習や体験活動の場として絶好の環境であり、これまでも全国各地の河川で子どもたちを対象とした様々の体験活動が行われてきた。

蒜山三座では、山腹に複数の沢が発達し、火山特有の放射谷の地形がみられる。沢は蒜山三座から崩れ落ちた土石により涸川をなしている。放射谷を流れ下る谷川は、火山灰台地の裾野を深く侵食し、峡谷を形成しながら、旭川へと流れ注いでいる。

河川は、子どもたちが「水」について学習する場合に適した環境であるが、蒜山三座や大山が火山であるがゆえに、中国山地に源を発する河川は、谷底を流れ、近づきにくい環境となっている。

一方、旭川は、中国地方を代表する清流のひとつで、魚釣りの盛んな河川である。また、日野町にはカヌー公園が整備されている。 河川での体験学習活動としては、山地の源流域と下流の河川(麓の人里を流れる川など)とを比較することで、その環境や水質の違いを体感させ、川の汚れとその原因について考えたり、河川のもつ水質浄化作用や生態系ついて学ぶ体験メニューが普及している。 また、河川は上流域の土地利用や植生によっても、水質や水量などへの変化が生じることから、川をよく観察することで、広域的な水循環のほかに、森林のもつ治水機能、水源涵養機能についても学ぶことができる。あわせて、下流の利水状況をいっしょに学ぶことで、水質保全の大切さを実感させることもできる。



活動のフィールドと体験内容(体験メニュー1)


中国山地山麓における河川の活動フィールドとしては、下蚊屋上流を流れる本谷川、久連下流の旭川、船谷川の湧水ビオープ公園を候補地としてあげることができる。さらに、少し離れた場所ではあるが、岡山県新庄村を流れる新庄川の女滝(不動滝の下流部)が候補地となる。

本谷川は鏡ヶ成・烏ヶ山を源流とする河川で、火山麓扇状地や火砕流を深く侵食して流れ、下蚊屋ダムで堰き止められた後、渓谷(かまこしき渓谷)を形成しながら旭川へと注いでいる。

下蚊屋上流を流れる本谷川は、深い峡谷の谷底を流れる谷川で、複数の砂防堰堤が設けられているが、車両(マイクロバスの通行は確認が必要)を利用して河川に沿った道路を上ると、比較的川に入りやすい場所にいきつくことができる。このあたり、水質が良好な上に水量も豊富で、川底は岩盤や砂礫となっており、川遊びや水生生物の観察ができる環境となっている。船谷川の湧水ビオープ公園は、水辺の生き物の観察に適した場所である。

また、久連あたりを流れる旭川では、河原がみられ、川遊びが可能である。また、深い淵もみられ、水深もあることから、カヌー体験や和舟漕ぎ体験も可能である。

旭川では、様々な方法で、河川の水質や水の汚れを調べ、その原因を考えるともに、流況や河岸の植生から、河川のもつ水の浄化作用(酸素の供給と有機物の分解)をについて、子どもたちといっしょに考え、望ましい河川の姿や自然について語り合うことができる。

また、旭川とその支流では特別天然記念物オオサンショウウオが多数生息していることから、オオサンショウウオの生態を現地で学び、オオサンショウオを通じてみた水環境や河川生態系などを学ぶ環境学習も可能である。

山地を流れる河川においては、より冒険的な川遊び体験として、滝壺での水泳や飛び込みが考えられ、真庭地域周辺では、山乗川上流の山乗渓谷や岡山県新庄村の不動滝が思い浮かぶ。

山乗渓谷については、アクセスが困難な上に安全性の観点から難があるが、新庄村の不動滝下の女滝の滝壺は、近づきやすい上に、安全性が確保しやすい場所にある。ここは、周囲に美しい渓谷林が広がっており、深山幽谷の雰囲気がある。大きな滝壺での川遊びは、源流体験としては、スリルのある活動であり、思い出に残るものである。

A渓流・渓畔林・・・水のきれいさ、森と水の係りを実感する環境

渓流や谷川は、水そのもの、森と水との係わりを直接目にすることのできる環境であり、静かな森の中をせせらぎの音を立てて流れる透きとおった水は、それだけで自然の素晴らしさを実感できる。

大きな火山である蒜山三座や大山では、火山灰に被われた裾野に深い谷が幾筋も発達し、中には、本谷のように100mを超える峡谷もみられる。「放射谷」と呼ばれる成層火山特有の地形(深く火山灰台地を侵食する谷)である。

蒜山三座や大山の山麓では、谷川はこの放射谷の谷底を流れ、子どもたちが立ち寄りにくい場所にあるが、放射谷の上流部には、美しい渓流がみられ、渓流に沿って「渓畔林」と呼ばれる渓谷域特有の森林の環境が見られる。

蒜山三座や大山で見られる畦畔林は、トチノキやサワグルミ、カツラ、ケヤキ、イヌシデ、イタヤカエデなどの大木が育つ巨樹林の環境をなし、これらの樹木が渓流の水辺に大きく枝を張っている。蒜山三座や大山では、渓流はこのような巨樹の育つ林の中を豊富な水量で流れ、初夏にはアカショウビンやオオルリ、ミソサザイ、キビタキ、クロツグミなど多くの野鳥のさえずりを聞くことができる。



活動のフィールドと体験内容(体験メニュー2)


大平原の近くを流れる木谷川では、ケヤキやトチノキ、サワグルミの巨樹が育つ渓畔林が発達し、畦畔林の中を豊富な水量で流れる渓流がみられる。この渓流の水は、夏の渇水期でも水量は豊かで、すぐ上流に広がるブナ林から滲みだした水であり、火山の溶岩地帯特有の表層地質による伏流水も合流しているものと考えられる。

ここ木谷では渓流(谷川)に沿って歩く遊歩道が整備されており、渓流と畦畔林(森)両方の自然を楽しむことができ、比較的安全に水辺に近づきやすいことから、渓流や渓谷の自然を通じて、水と森について学び・体験するフィールドに適している。

この場所も国立公園内であり、活動は制約されるが、発達した渓畔林が渓流に沿って残り、トチノキやケヤキ、サワグルミの巨樹も多く育ち自然性がよく保たれている。加えて、奥大山スキー場やエバーランドに近く、遊歩道が整備され、安全性は確保しやすい。

この場所は、透き通った渓流の水に手や足を入れることができ、その冷たさやきれいさを体感できることから、水やそれを育む森の大切が実感できる。

夏場であれば、谷川に入り、カワゲラやムカシトンボの幼虫、小型のサンショウウオなど、きれいな水に生きる水生生物を手にとって観察することができる。

また、すぐ上流にブナ林が広がっており、渓畔林という渓流沿いに育つ樹林が目の前に迫っていることから、水と森の関係を実感できる場所であり、森のもつ水源涵養機能のほか、樹木の棲み分け(生き物が自分に適した環境を選んで生息生育すること)をよく観察することができ、あわせて、トチノキやケヤキなどの巨樹に安全に近づき触れることができる。

このようにきれいな渓流に沿って巨樹が多く見られ、多くの野生生物が観察できる場所では、水辺の環境マップづくりなど、子どもたち自らが谷川の環境を調べ、それをみんなに紹介する体験活動が楽しい思い出となる。

また、蒜山の火山麓扇状地を深く侵食する本谷川や細谷川の渓流部も体験活動が可能な場所であり、蒜山三座や大山に深い峡谷を発達させた水の浸食作用、火山特有の地質土壌、悠久なる大山の水の流れについて学ぶのにも適したフィールドである。本谷川は水量も豊富で、夏は水に入っての川遊びも可能である。また、鏡ヶ成に近い本谷川の源流渓流部では、ミズナラの巨樹の育つ美しい森林域もみられることから、秋のハイキングを兼ねた渓流巡りも体験メニューとなる。

B原生林(ブナ林)・・・森の神聖さ・神秘性を感じる環境

大山を代表する優れた自然がブナの天然林である。大山に分布する天然林は、厳密には手つかずの原生林ではなく、大山が信仰の山であり、神聖な領域であったとことから、人の手が加わりながらも、森(ブナ林)が人によって大切に守られており、その結果、西日本最大級のブナ林が大山に残されるに至っている。

ブナ林もよく観ると、原生林の景観をみせるブナの極相林のほか、伐採跡にブナが萌芽再生したブナの二次林、ブナとミズナラが混生する若いブナ林など、多種のブナ林が奥大山にみられ、それぞれの環境において異なった生態系や景観みられる。

大山のブナ林のような山地の森林域は、深山と呼ばれ、人里近くの見られる里山とは対象的に、人里離れた山深い環境にあり、人の手があまり加わっていない状態での森林の自然や生態系を学び体感することができる。

一方、深山の環境でも、木地師など人の生活が営まれた場所はあり、ここでは、木工による食器づくりなどがなされ、山深い森における人の生活や文化がみられた。

とりわけ、大山はブナ林の山であり、奥大山にも広い面積でブナな天然林が広がっていることから、ブナ林をフィールドに、水源涵養機能、治水機能、保健保養性、生物多様性の保全、気候緩和機能、温室効果ガス吸収機能など、様々の角度から体験学習メニューを考えることができる。

そして、ここで重要なことは、「なぜ、大山にはこのように広い面積でブナ林が残されているのか」ということであり、霊峰大山における「森(ブナ林)と人との係わり」について、その歴史的背景を含め、子どもたちに分かりやすく紹介し、森林の資源性、自然保護・森林保全の大切さを実感してもらうことである。



活動のフィールドと体験内容(体験メニュー3)


活動のフィールドとして適当なブナ林は、木谷(大平原より標高の高い場所)のブナ樹海、あるいは、鏡ヶ成周辺のブナ林と考える。 大平原の上流域(健康の森周辺)では、鍵掛峠にかけて、ブナの樹海が広がり、原生林の景観をみせるブナの極相林のほか、伐採跡にブナ林が再生した萌芽林、ブナとミズナラが混生する若いブナ林など、多種のブナ林が存在している。

健康の森では、ブナ林の中を歩く遊歩道が整備されており、歩いていくにつれて、周辺森が若いブナ林からブナの原生林へと変化し、ブナ林特有の保水性の高い腐葉土や湧水も観察できることから、ブナや森(ブナ林)を学び・体験するフィールドに適している。

また、大山山腹を被う森(ブナ林)は、山岳信仰により守られてきた神聖な環境であることから、大山の歴史文化、「森と人との係わり」を学ぶ環境として適したフィールドである。

ブナ林の多くは、国立公園内であり、活動は制約されるが、その反面、太陽の日差しにより変化する森の色、森の音(野鳥の鳴き声、虫の音、梢のそよぎ、水の流れる音)、森の臭いなど、ブナ林特有の感覚を体感できるほか、原生自然的な環境が残され、多くの野生生物が生息していることから、野鳥や昆虫、植物の観察に適している。

ここでは、水源涵養機能(水を貯え、ゆっくりと下流に水を流す働き)や生物多様性(多くの野生生物に生息の場を与える働き)、保険保養性(人を生き活きと健康にする働き)、地球温暖化防止機能(二酸化炭素を吸収する働き)など、森(自然林)のもつたくさん機能を体感することができる。

また、標高が高いことから、湿潤で寒冷な気候に生育するブナ帯の植物が観察され、地球温暖化による生態系(寒冷な気候を好む植物など)への影響など、地球規模での環境変化を考える上で、ブナ林の環境が活用できるほか、山深い環境を活かし、木地師などを題材に、子どもたちと「森での生活文化」、「森と人との生活の中で係わり」について語り会うことができる。

C水田農村域・・・中国山地の「森と水と土の恵み」を実感する環境

蒜山三座や大山の裾野には、広々とした水田農村域が広がり、水田の前景に秀麗な大山を美しく仰ぎ見ることができる。この緑豊かな水田風景は、蒜山三座や大山の噴火による火山灰と、大山の豊かな森が育む水とによる大地の風景である。この水田風景をみるだけでも「大山がいかに大量の水を貯えていて、麓の農地(水田)に豊かな水を運んでいるのか」が実感できる。

また、農地で作物を育てるには肥料が必要であり、化学肥料が手に入らなかった時代は、森や里山、草原で集めた落ち葉や草(茅)、藁を家畜の糞と混ぜ、堆肥として田畑に入れていた。

中国山地は、このようなバイオマス資源の山であり、真庭の北部、蒜山地域には、クロボクと呼ばれる黒い火山灰土壌とともに、その裾野に緑豊かな水田地帯を発達させた。

時に農村は、干ばつや水害、豪雪など天災や疫病に見舞われることもあった。そして、水田農村では、自然の恵みに感謝し、護国豊穣を願って、神様を祭る風習も生まれており、中国山地山麓の農村域でも神社や社、犀の神、山の神など多く見ることができる。

水は、生き物に生息の場、生命発生の場を与え、食料の生産をもたらす。水田は農村にみるウェットランドであり、水田や用水路、溜池では、多くの水辺の生きものが生息しており、田んぼや小川で生き物を観察することで、「水は生命の源」であるということを実感することができる。

ウェットランドとは、湿地や河川、湖沼などの水辺の環境であり、中国山地周辺には、中海、宍道湖をはじめ大小多数のウェットランドがみられ、水辺を求めって多くの生きものがやってくるが、蒜山三座や大山の裾野には広々とした水田域や溜池の水辺が見られ、山裾を被う里山雑木林と一体となって、山麓における生物多様性を高めている。



活動のフィールドと体験内容(体験メニュー4)


御机および貝田の水田域が適しているが、蒜山の火山麓扇状地上にも水田域が見られ活動のフィールドとなる。これら水田域では、農地を前景に大山南壁の雄大な眺望が得られる。とりわけ、御机および貝田では、中国山地を背景に広々とした水田域が開け、多くの写生客やカメラマンが訪れるなど、風景的にも素晴らしく、子どもたちに感動を与える活動の場となる。

これらの水田域では、沢や谷川の水を農地(水田)に引き込むための用水路に水が勢いよく流れており、中国山地に降った雪や雨が森とその大地に貯えられ、山麓の農地を潤し、稲の実りとなって、秋に麓の人たちに収穫をもたらしていることが実感できる。

ここでは、「田んぼの水探検隊」などと名付け、水田を潤している水が「どこから」「どのようにして」やってきているか探り、農村を体験する水の学習も活動メニューとなる。

そして、水田域では、地元農家の協力を得ることができるのであれば、田植え、稲刈りなどの稲作に係る農業体験、農作業学習(見学)、米作りの学習、アイガモ農業の見学が可能で、「食農学習」にも適した場所である。とくに、貝田地区では水田域に隣接した集落に大きな水車が設けられており、水の力を利用した精米作業など、「食の安全」や「環境に配慮した農業」など、水に係わりの深い水田農業ついて子どもたちが学習できる。

また、水田は、多くの生き物の生息の場となっており、「食の安全」や「水と生命」を考える上で、興味深い環境であることから、春から夏にかけて、「田んぼの生きもの調査」、「小川(農業用水路)の生きもの調査」など、水田域をビオトープ(生き物の生息空間)とした自然観察や、休耕田を利用した「田んぼのビオト−プづくり」などの活動を通じて、絶滅が懸念されているメダカ、タガメをはじめ、トンボ類の生息環境の再生の体験が可能である。

実りの季節となる秋には、空気も澄み、蒜山三座や大山、烏ヶ山の山々をくっきりと望むことができることから、農道や畔道を利用した「畦道トレッキング」に農作業見学などの体験学習の内容に加え、メニュー化することができる。

D人里(農村集落域)・・・人の暮らしに中国山地の大自然を感じる環境

中国山地の麓に広がる水田地帯や里山域には、農地近くに人家や集落が分布し、静かな山里の風景が開けている。ここにも、水を取り入れた生活の知恵があり、暮らしの文化がある。

中国山地や蒜山地方の集落では、「つかい川」と呼ばれる水路で沢水を集落に引き込み、各家で生活用水として利用している。

中国山地に降る雨は、森と大地に貯えられ、谷川から用水路によって麓の集落の中を流れる「つかい川」に導かれ、裾野に広がる農地を潤していった。

つかい川を流れる水は、中国山地の森が育んだ自然の恵みである。中国山地では、山里の暮らしの中にも、豊かな森林の存在とその有難さを知ることができる。

また、人里にあっても森の自然を観ることができる。里には冬でも緑濃い鬱蒼とした樹林の環境が存在する。「鎮守の杜」と呼ばれる神社の社叢である。ブナ林の育つ山地と異なり水田の広がる山麓の農村域は、気候が温暖なため、森林は遷移が進むと、最終的にシイやカシなどの常緑の照葉樹が茂る極相林になる。この常緑照葉樹林が、人里での潜在自然植生であるが、鎮守の杜では、その土地の気候風土や潜在自然植生に応じ、地域の自然を観察することができる。このような人里に残る森(鎮守の杜)では、ムササビやフクロウなどの野生生物の姿を目にすることも多い。

また、農村には、気候風土や歴史に応じ、地域固有の生活文化が生まれ、四季折々の風物詩がみられる。風物詩には、農耕や収穫、災害に関係したものも多く、自然の恵みに感謝し、護国豊穣を願って、神様を祭る風習も生まれている。

蒜山三座や大山山麓の農村域でも神社や社、犀の神、山の神など多く見ることができ、巨樹の育つ社叢(鎮守の杜)の環境も水田農耕の文化(稲作文化)と関係が深く、その背景には、緑豊かな森林の環境がみられる。

加えて、大山は、古くから霊峰と呼ばれ、信仰の山であったことから、大山に参拝に向かう「大山道」と呼ばれる古道が麓の山里を通っており、大山道の沿道には、石碑、石仏などの歴史遺産が多く残されている。蒜山三座や大山に残るブナの原生林も、大山が信仰の山であり、聖域であったことから、神聖にして侵さざる環境として保護されてきたが、このような山里に残る素朴な石仏、石碑にその神聖なる森の存在をうかがい知ることができる。

里山に見る生活文化は、自然と共生する環境文化であり、中国山地山麓の農村でも、人が日常生活の中で里山に入り、暮らしや農業に必要な燃料や肥料などを手に入れていた。



活動のフィールドと体験内容(体験メニュー5)


御机、下蚊屋、貝田、俣野など古くから開けた農村の集落域がフィールドとなる。ここでは、水と人の暮らしの中で係わりを学ぶため、生活用水路を水の学習に活用し、「つかい川探検隊」などとして、用水路をたどり、その水源を見つけ、水と森との関係を考える。また、水がどのように集落に引き込まれ、生活用水として利用されているのかなどを調べ、水と暮らしとの関係、きれいな水の有り難さ、水を大切につかう知恵などを大山での昔の生活に学ぶことができる。

また、人里に残る森(鎮守の杜)を探検し、ムササビやフクロウなど、鎮守の杜を生息する野生生物を観察する。鎮守の杜に育つ巨樹や植生を調べ、ブナ林との違いを見つけ、ブナ林(夏緑広葉樹林)と常緑照葉樹林、気候や標高による森の違いを学ぶこともできる。 人里に残る石仏(お地蔵様)や石碑、大山道を訪ね、昔の人の大山や自然への崇拝の念を知り、大山のブナ林が今日まで残されてきた理由を子どもたちといっしょに考える活動も体験学習のメニューとなる。さらに、茅葺き屋根の民家(金属板で被われたものも含む)など古い家を訪ね、そこに息づいている「木の文化」を学び、ブナ林などの天然林とスギ・ヒノキの植林との役割の違いを学び、森と人との良好な関係を考える活動もメニューに加える。

E草原・湿原・・・森と草原、自然の移り変わりを感じる環境

草原は、ブナ林に次いで蒜山三座や大山の自然を象徴する植生である。温暖で降水量の多い日本では、草原は人の手が加わらなくなると、植生遷移が進み、森林の環境へと移行する。

近年まで草原であった場所も、火入れ(山焼き)などの管理が放棄されて雑木林へと遷移したもののほか、スギ・ヒノキが植林されて人工林になっている所も多い。かつて全国の山村において広くみられた草原の環境は激減し、今では阿蘇や霧が峰、中国山地など一部の地域に残る貴重な環境となっており、草原に棲む野生生物の多くが絶滅の危機に瀕している。

蒜山三座や大山周辺では、鏡ヶ成一帯や蒜山高原に草原の環境が見られ、鏡ヶ成では、ススキ草原に囲まれるように湿原の水辺が見られる。鏡ヶ成の湿原は、湿原特有の生き物や植物群落、希少な植物が生育しており、遊歩道を歩いて観察することができる。湿原は、湖沼や河川とともにウェットランドと呼ばれる水辺の環境であり、「生命の発生」となる場である。

さらに、大山蒜山地域の草原の大きな魅力として、明るく開けた高原の自然景観があげられ、草原や湿原では、春から秋にかけて多くの花が咲き、蝶が舞う明るい林野の風景がみられる。また、草原は、樹木がまばらに生育する疎林の風景をみせることがあり、蒜山高原の草原では、火や乾燥に強い樹木が火入れの熱に耐えて生き残り、寒冷な気候であるため、ススキの育つ草の丘にカシワやクロマツの散生する印象的な景観や植生がみられることがあるほか、湧水などで湿地帯となっている場所では、ハンノキなどの湿生樹が育つ疎林の風景がみられる。

このように、草原では、森林とは異なった生き物や生態系、景観を見ることができることから、森林と草原の自然や景観を対比させて、その環境を学ぶことは、森林を知る上でも重要である。



活動のフィールドと体験内容(体験メニュー6)


体験活動の場となるフィールドは鏡ヶ成や蒜山高原の火入れ草原、瓜菜沢の湿地帯である。鏡ヶ成は、自然観察路がよく整備されており、極相林(森林遷移が進んだ最終的に落ち着く森の環境)であるブナ林に加え、湿原から草原へ、草原から森林へと移り変わる林野の風景と自然がみられることから、草原を通じて森林の成長や成り立ちを学ぶフィールドとなる。

また、鏡ヶ成や瓜菜沢では、湿原の環境がみられ、「生命発生の場」となるウェットランドの自然を観察することができる。

そして、高原に広がる明るい草原の風景は、子どもたちにとっても感動的で印象深いものとなることから、遊びを交えた体験活動の場として優れている。

草原の多くは、放牧や早春に行われる山焼き・野焼きなどの火入れ作業によって維持されており、大山に近い蒜山高原などでは、火入れ(山焼き)は春をつげる風物詩になっている。

火入れが行われる草原では、四季に変化する草原の風景を見ることができ、早春に行われる火入れの燃えさかる炎はもちろん、火入れの後の黒く焼けこげた大地の風景、春から初夏にかけて少しづつ濃くなっていく草原の緑、そこにはワラビやゼンマイ、ギボウシなどの山菜の芽吹きが多く育ち、山菜採りなど山里の生活体験が可能である。

梅雨から夏にかけて草原では、オカトラノオやススキ、ハギの仲間が急速に成長し、梅雨が明けるころにはうっそうとした草藪となる。この時期、草原では多くの草花や蝶の姿をみることができ、昆虫採取などの体験もできる。夏から秋にかけて、草原ではススキ、オミナエシ、キキョウ、ハギなど秋の七草と呼ばれる野草が花を咲かせ、明るい秋の風景へと変わる。この時期は、草原に咲く野の花を採取し、植物標本づくりが体験できる。

晩秋から初冬にかけて、草原は一面がススキの枯れ野原となる。この時期は太陽の日差しも優しく、蒜山三座や大山の眺めを楽しみながら草原を歩くのに適した季節であり、蒜山三座や大山、烏ヶ山を眺めながら草原を歩くトレッキングなど記憶に残る体験活動ができる。

F里山雑木林・・・人と自然との係わり、森の温もりを感じる環境

大山を語る時、「森」といえば、ブナの原生林をイメージするが、山麓の里山地帯に広く分布する雑木林(主にコナラ林とアカマツ林)も大山の自然や風景を緑豊かなものにしている重要な森林である。里山雑木林は、大山山麓の丘陵域に広く分布する樹林で、山腹を被うブナ林とともに、大山を代表する森林である。

春の新緑、夏の深緑、秋の紅葉、明るい冬枯れと季節感豊かな林野の風景を見せる里山雑木林は、大山の自然を語る上で、重要な環境要素である。

ここでいう里山雑木林とは、人里周辺の林野域に見られる二次林(人によって樹林が伐採された後や山火事の後などに自然に育つ樹林)と呼ばれるコナラ林あるいはアカマツ雑木林のことで、古くから人の手が加わってきた半自然の樹林である。

里山雑木林は、古くから人の手によって管理活用されてきた森林であるため、その地方の生活文化や気候風土、地形条件によって、特色のある樹林の景観を見せており、そこには、生物多様性に富んだ二次林の環境がみられ、ブナ林とは異なった生態系や野生生物を観察することができる。

里山雑木林の多くは、農家が薪炭林などとして生活の中で利用してきた樹林で、その代表的なものにコナラ林がある。コナラ林は、秋に落葉する広葉樹の林で、大山山麓にも広く分布しており、人家や農地の近くにあって季節感豊かな明るい樹林の風景をみせている。 里山雑木林は、古来より人と森が親密な関係にあったことを物語るものであり、その証は炭焼き釜(あるいは釜跡)などに見ることができる。里山に見られる雑木林は、再生可能なバイオマス資源の森である。里山雑木林とそれを資源として活用した昔の人の暮らしを知ることは、地球環境時代に求められる人のライフスタイルを考える上で大切なことであり、里山雑木林は、森林にあって、地球環境の保全、地球温暖化の防止を考える場所として適した環境である。



活動のフィールドと体験内容(体験メニュー7)


フィールドとして適当な里山雑木林は、蒜山の火山麓扇状地上の農地周辺に残るコナラ林(あるいはミズナラ林)である。また、助沢地区、御机地区や鳥取大学演習林にも雑木林が広く見られ、活動の場として利用可能性が高い。

蒜山の火山麓扇状地上は、農地利用の歴史も浅く、古くから農耕が行われた里山地帯ではないものの、人家近くに分布する落葉樹林は若いコナラ林やミズナラの林で、里山的な環境となっている。

ブナ林域が広く国立公園に指定され、活動が規制されているのと異なり、里山雑木林の大半は国立公園外にあることから、下草刈りや樹木の伐採などの里山管理体験、落ち葉を集めての堆肥づくり体験、炭焼き体験(あるいは炭焼き釜づくり体験)など、かつて里山で行われていた生活体験が可能となる。このような環境では、「里山地域での生活文化」、「人と自然とが共生する生活」などをテーマに、子どもたちと地球環境時代に求められるライフスタイルなどについて語り会うことができる。

また、かつて里山は子どもたちの遊び場でもり、秘密基地と称して木を切って小屋を作って遊んでいた。このような場所では、秋は、森に入り、ドングリや小枝、落ち葉を集めてのクラフトづくり体験、ツリーハウスづくり体験も可能である。里山では、このような遊び体験に加え、冬季の積雪も少ないことから、野鳥観察、昆虫採集、野草観察などの四季を通じての自然観察を行うことができる。

また、下草が刈り払われ、林床がよく管理された里山雑木林は、ブナ林にも共通した樹林の環境がみられ、カタクリやギフチョウなど希少な生き物の生育生息が確認されることもあり、野生生物の保護活動体験も可能である。

G高原牧野・・・厳しくも美しい火山麓の自然を学ぶ環境

蒜山三座や大山の山裾には、成層火山特有の平坦な地形の高原域が広がり、牧場や採草地、高原野菜畑など、牧歌的な高原農村の風景が開けている。

蒜山三座や大山、烏ヶ山、蒜山三座の山裾に開けた高原面は、大きな火山に見られる火山麓扇状地とも呼ばれる緩斜面(傾斜の緩いスロープ面)であり、寒冷な気候条件や水の浸透性が高いことなどから、水田耕作に適さず、牧野として利用がなされている。

牧場や採草地、畑は、落葉樹の樹林帯に囲まれ、人の気配の少ない静かな林野景観をなしており、クマタカやオオタカ(時にイヌワシ)などの猛禽類をはじめ多くの野鳥や蝶を観察することができる。農地と樹林が接する林縁域には、低木の混じる草藪(ブッシュ)や草むらも多く、秋にはよく虫の鳴き声を聞くこともできる。

農地としての利用がなされなくなった牧野では、畑や牧草地が原野化し、農地から草原、草原から落葉樹の低木林、低木林から高木林へと移り変わる森林遷移の過程が観察できる。

そして、高原牧野の大きな魅力として明るい林野の景観があげられる。蒜山三座や大山周辺では、高原牧野は、蒜山三座や大山の山麓にあって、眺望の開けた明るい林野の環境をなし、牧歌的な景観をみせている。ここでは、牧場や採草地、高原野菜畑の広がる牧野を歩きながら、蒜山三座や大山、烏ヶ山の山々を美しく眺めることができることから、100万年以上前から始まった蒜山三座や大山火山群の激しい火山活動の歴史を地形から読み取ることができる。

また、気温の低い冷涼な環境にあることから、落葉広葉樹も多く、季節による景色の変化は明瞭で、新緑や紅葉の時期は美しい林野の風景がみられ、この時期、ハイカーや行楽客も多い。

高原牧野の中には、戦後の開拓者としてこの地に入植した人たちが原野であった土地を牧草地や農地として利用しているところや、近くの農家が酪農を営むために放牧場として利用しているとろもあり、ここでは、厳しい自然条件を克服して農業や畜産を営む開拓地の風景がみられる。

牛が放牧された牧場では、牧草地の周囲にポプラ並木やクロマツ、山桜などの風景木も多くみられるが、これらは、日差しの強い夏に放牧牛が日陰を求めて休息できるよう残された樹木や、目印になるように植えられた樹木である。

また、標高が高く、寒冷な土地であることに加え、平坦な高原状の地形をなしていることから、背後に聳える山から吹き下ろす風雪も強く、カラマツ防風林の風景もみられる。

このような牧野に育つ風景木が高原の景観をより美しく印象深いものとしている。



活動のフィールドと体験内容(体験メニュー8)


笠良原、東山牧場、瓜菜沢牧場などの牧野域が体験活動のフィールドなる。

この場所は、視界の開けた高原の牧野域であり、蒜山三座や大山や烏ヶ山を背景に牧歌的な高原の風景が開け、農道など歩くことのできる道も多い。

冬の厳しい気候条件とはうらはらに、高原牧野は、眺望が良好で、春から秋にかけて、牧歌的な景観が見られる場所であることから、ハイキングやピクニックを楽しむのに適した場所であり、晴れた日には、蒜山三座や大山や烏ヶ山もよく観察でき、その噴火の歴史や火山地形をよく観察することができる。

厳しい自然条件を克服して牧畜や農業が営まれている開拓地では、「蒜山三座や大山の噴火の歴史」、「火山と土壌」、「火山麓での人の生活」など、火山地域ならではの「生きた地球の観察」や「厳しい自然の中で生きる人の暮らし」についての学習も可能である。 そして、高原に広がる明るく牧歌的な林野の風景は、子どもたちにとっても感動的で印象深いものとなることから、「高原の宝探し」など、冒険的な体験活動の場として優れている。

高原野菜畑では、農家の協力のもと、ダイコンの収穫など農業体験も可能である。

また、街や集落から離れ、空気が澄んだ高原地帯であることから、星空の観察に適している。



3.真庭地域「ふるさと清流自然学校」の体験学習プログラム





ここまで、真庭地域の自然環境から体験学習の内容や活動のフィールドについて検討してきたが、それぞれの環境について可能とされる体験内容(体験メニュー)を整理してみると、以下のとおりである。



真庭地域「ふるさと清流自然学校」の体験学習メニュー1(河川水辺)


環境体験学習のメニュー適地
河川・谷川@魚採りなどの川遊びを通じ川の環境を体感する旭川
A川に入り、五感で水の様子を体感する新庄川
B川に棲む水生生物を観察し、水の汚れを調べる目木川
C川の水質を検査し、水の汚れと原因を調べる下和川
D取水堰や用水路を調べ、川の水利用を学ぶ鉄山川
E昔の川の様子や川での遊びを地元の人から学ぶ粟谷川
F今の川と昔の川の違いから森の環境を考える備中川
G川と人との暮らしの中での係わりを学ぶ湯原湖
H水辺の生き物を観察し、川の生態系を学ぶ
Iオオサンショウウオの生態から川の環境を学ぶ
J谷川を歩いて遡り、川の環境を学ぶ
K大きな淵のある滝壺で源流の川遊びを体験する
Lタモ、投網など川での魚捕りや漁法を学ぶ
M湧水ビオトープ池で水生生物を観察する
N川舟を漕いで川の環境を体感する
O流れの緩い水辺でカヌーを体験する
Pオシドリなど冬に飛来する水鳥を観察する




真庭地域「ふるさと清流自然学校」の体験学習メニュー2(水田農村)


環境体験学習のメニュー適地
> 水田農村域@水田の水がどこから来ているのか探検する蒜山盆地水田域
A稲作、農業から水の大切さと大山の自然を学ぶ古見地区
B水田や水路に生きる生き物を観察する目木地区
C休耕田でのビオトープづくりを体験する月田地区
D大山の水を通じて環境と農業を考える上河内地区
E田んぼの水が環境に果たしている役割を学ぶ
@畦道を歩いて農村の風景と自然を観察する
A田植え、稲刈りなどの農作業を体験する
Bアイガモ農法など環境農業、稲づくりを学ぶ
C田んぼの風物詩や農作業を見学する
D稲作、米づくりから地域の自然や文化を考える




真庭地域「ふるさと清流自然学校」の体験学習メニュー3(人里山里)


環境体験学習のメニュー適地
人里@古い石仏、石造物を訪ね、由来と歴史を探る郷原集落
(農村集落域)A大山道を訪ね、大山と人の関係や歴史を学ぶ星山集落
B大山の山麓での生活文化を地元の人から学ぶ延助集落
C餅つき、しめ縄づくりなど農村文化を体験する杉成集落
D資源を大切につかう知恵を昔の生活文化に学ぶ吉念寺集落
E古い民家に泊まり、昔の生活を体験する
@鎮守の杜や屋敷林に生きる生き物を観察する
A鎮守の杜に育つ樹木や植生を調べる
B鎮守の杜とブナ林を比べ、森の違いを学ぶ
C古い民家を訪ね、「木の文化」を学ぶ
D麓の暮らし、風物詩から山や森の存在を考える
E木のつかい方から天然林と植林の違いを学ぶ
F木の文化から森と人との良好な関係を考える
@集落を流れる水路と水の利用を調べる
A水車や水路など水をつかった生活の知恵を学ぶ
B麓の暮らしから水の大切さと自然の恵みを学ぶ




真庭地域「ふるさと清流自然学校」の体験学習メニュー4(山地渓流)


環境体験学習のメニュー適地
渓流・渓畔林@渓流を歩いて五感で水と自然を感じる山乗渓谷
A渓流(きれいな水)に棲む生き物を観察する植杉渓谷
B渓流に入って「自然の水」を感じる明連川
C渓流の生態系、川と生き物の関係を学ぶ湯船川
D渓流を歩いて「森の水の関係」を調べる苗代谷
E渓流を遡って、湧水や水源の環境を調べる神庭の滝渓谷
@渓畔林を観察し、水辺に育つ樹木を調べる
A渓畔林とブナ林の違いを観察する
B渓畔林に育つ巨樹を調べ、マップをつくる
C渓流と渓畔林に棲む野生生物を観察する




真庭地域「ふるさと清流自然学校」の体験学習メニュー5(山地森林)


環境体験学習のメニュー適地
原生林@ブナ林(森)の自然を五感で感じる鳥取大学FSC/
(ブナ林)Aブナ林を探検し、樹木マップつくる毛無山のブナ林
Bブナ林で「森の命」と「森の恵み」を探す上蒜山のブナ林
Cブナ林の樹木を観察し、森と水の関係を調べる山乗峠ブナ林
Dブナ林で「森の構造と仕組み」を学ぶ天狗の森
Eブナ林(森)が環境に果たしている役割を学ぶ
F「森の恵みと働き」を森の中で絵にする
G中国山地のブナ林の自然と歴史を学ぶ
H原生林の中で「森と人との係わり」を学ぶ
Iブナ林の生態系、森と生き物の関係を学ぶ
Jブナ林(水源林)を再生する活動に参加
K森の樹木を観察し、自然環境の変化を学ぶ


都市に暮らす子どもたちが日ごろ目にする水は、汚れて濁った川の水や水道の蛇口から出る上水であり、大自然の中で山地の沢や谷川を流れる透きとおったきれいな水に触れることは貴重な体験となる。

とくに、ブナ林の林床では、腐食した落ち葉が堆積して保水性の高い土壌が深く形成されていることから、その直下流の沢には、澄んだ水が流れており、このような渓流の環境は、近くのブナ林とあわせ、水と森を学ぶ体験学習の場として適している。

また、ブナ林といえば、豊富な水量で水が流れる源流のイメージがあり、きれいな水が流れる谷川での水遊びや水泳を楽しみにする子どももいることから、水泳のできる清流の環境を中国山地周辺に求め、源流体験的なプログラムも検討する。

しかし、大山は、1万年前(あるいは2万年前)まで噴火していた巨大な火山であるため、降った雨は、溶岩の砂礫に滲みこんで伏流水となったり、火山灰土に被われた地表を深く侵食して峡谷をつくるため、安全に谷川に近づくことができる場所は、木谷の渓流部などに限られおり、その場所が体験学習のプログラムを考える上でのフィールドとなる。

また、子どもたちが安全に水泳のできる谷川を大山近辺に求めてみると、岡山県側の新庄川では不動滝(女滝)の滝壺付近に大きな淵がみられ、これまでも都市の子どもたちが入って水泳をしてことがある。

一方、大山では伏流水が豊富で、湧出した水は、山麓の農地を潤し、裾野台地の上に水田地帯を形成していることから、麓の水田農村域は、水の農業利用、生活用水としての利用の観点から、水のプログラムを実行する時のフィールドとなる。

水田農村域の中には貝田地区のように、水車を利用して精米するなど、米作りで地域が元気を出している集落もあり、地元集落の協力が得ることができれば、水と農地をテーマに「水と米づくり」、「水と農と食」、「農と環境」などを学ぶプログラムも組みやすい。

また、蒜山高原を源とする旭川、明連川、湯船川などの谷川は、火山灰が降り積もってできた裾野台地を侵食しており、水辺に近づきにくい環境となっているが、集落に近い部分では、取水堰を管理するための山道もあり、歩いて近づくことができることから、このような場所を見つけて活動のフィールドとすると、清澄な谷川の水辺もあり、清流を体感する学習プログラムを考えることができる。

下流の旭川は比較的水質もよく、瀬や淵の環境もはっきりしており、川遊びや魚採りなどを通じて川の環境を学ぶフィールドとなる。

河川と水田は、中国山地における代表的なウェットランド(水辺)である。ウェットランドは生命の発生の場であり、ビオトープとして重要な環境であることから、河川の水辺、水田周辺、湿原などのウェットランドに生息の場を求める野生生物を観察することでき、「水辺と野生生物」、「水と生命の関係」を学ぶことができる。

とくに蒜山高原は国立公園であり、その豊かな自然環境を背景に周辺の水辺には、オオサンショウウオをなど希少な野生生物も多く生息していることから、水辺の自然観察を体験メニューに加えることで、話題性と学習性の高い水のプログラムをつくることができる。

このように、真庭地域周辺でも渓流、河川、水田域などの水辺をフィールドに、様々な水のプログラムを考えることができるが、活動の多くが春から夏にかけての季節に集中することから、秋および冬に活用できる学習プログラムを考えることも必要であり、集落域を流れる用水を活用して、「水と人間の暮らし」など、山麓での生活文化を取り入れたプログラムづくりも検討すべきある。

なお、旭川では、冬に多種の野鳥が飛来し、近隣の日野町ではオシドリを保護する活動がある。また、広域的にみれば、日野川の河口に近い中海(米子市)には水鳥公園もあり、日野川や中海は、オシドリなどの水鳥の観察に適した場所もあることから、冬の水辺に飛来する野鳥の観察は、水辺が野生生物とって重要な環境であることを学ぶプログラムになる。