旧八束村
旧川上村
旧湯原町
旧中和村
河川環境調査
蘇れハンザキの棲む懐かしくも美しい水景色

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 岡山県北部に位置する真庭地域は、岡山県三大河川の一つ旭川の上流域(源流含む)にあり、その河川域は国により「特別天然記念物オオサンショウウオ棲息地」の指定を受けており、オオサンショウウオを頂点とする地域固有の生態系が維持されている。















 





 本活動は、オオサンショウウオの生息する河川水辺について、植生、水生生物の生息状況、河川形状、人の手の加わり方を調査し、生物多様性を把握することで、人とオオサンショウウオとの川を通じての係わりを解明し、河川生態系の保全を目的に「人と川との共生関係」や「河川工事における地域住民参加型の野生生物保護工法」を考えるにあたって必要な環境情報を収集するものである。




























 岡山県北部に位置する真庭地域は、岡山県三大河川の一つ旭川の上流域(源流含む)にあり、その河川域は国により「特別天然記念物オオサンショウウオ棲息地」の指定を受けている。








































本活動は、
@オオサンショウウオ生息に係るヒアリング調査、
A調査対象水域の選定、
B生息地の河川状況(人為的河川環境を含む)の調査、
C水辺自然環境調査、Dオオサンショウウオ・ビオトープの特性把握、
E河川(生物多様性)再生方策の提案
・・・という流れで進め、調査結果に基づき、オオサンショウウオを含む水辺野生生物の保護域を考察するとともに、地元自治体と地域住民を対象に2005年7月28日に現地見学会「オオサンショウウオ棲息地"蒜山の森"現地視察会」を実施した。














 聞き取りによると、旧川上村を流れる河川全体にオオサンショウウオの生息がみられるということであるが、中でも、旭川本流には最も多く生息しているとのことである。
 また、オオサンショウウオは水の冷たい所を好むされ、湯船川や明蓮川、苗代川など北西部地域を流れる河川の上流域に多く生息しているという聞き取り結果も得られた。
一方で、水がきれいすぎても、エサになる魚が少ないので、かえってその生息が少なくなってしまうため、湯船川上流での生息個体は少ないという意見も聞かれた。
 また、蒜山インターチェンジの排水が流れ込む川、蒜山ハイツの排水が流れ込む目名木川あるいは、蒜山小学校やの中学校の排水の流れ込む河川はその生息にとってよくないとの意見も聞かれた。
 なお、オオサンショウウオの好物であるサワガニの多い所には、その生息は多いとされ、田部川の上流には、サワガニも多く、オオサンショウウオも多く生息しているとのことであった。
































 旧川上村で自然の川の形態がよく残る場所は、明蓮川、湯船川をはじめとする北部と西部の渓流域や牧野の谷筋を中心に広くみられ、集落の近くを除き比較的自然に近い状態で、河川の環境が保全されている。
 また、集落の近くでも、改修された護岸には、石積のものが多くみられ、その川辺にはバイカモやミゾソバなどの水辺の植物が生育している。さらに、河川改修が進んでいる旭川でも、一部にブロック護岸がみられるものの、落葉樹林に被われた段丘崖などに自然の岸辺がよく残されており、自然性豊かな川の風景がみられる。
 なお、周囲に水田が開ける谷川では、水田へと水を引く頭首工が多く設けられ、魚類の遡上には支障があるものの、その岸には、石積の護岸が多くみられ、自然に近い状態で水辺の環境は保たれている。
 しかし、村の南部を流れる河川では、三方コンクリートによる改修も進み、粟住川や田部川などの一部では、川の自然は失われている。
山地の渓流域では、砂防工事や治山工事がなされ、明蓮川、湯船川、白髪川などの上流域では、大きなコンクリート堰堤が建設され、堰堤がつくる止水域や湿地をみることができ、その上流には自然の野渓をなす渓流と自然林の環境がみられる。




 聞き取りによる共通の認識は、八束村でもオオサンショウウオは、どの川にも生息しており、村内のほぼ全域に生息しているとのことであった。
近年、一時減少しかけていたオオサンショウウオも、少しづつ増え出したようで、川の上流でオオサンショウウオの幼生(4〜5p)をよく見かけられるようになったとのことである。
 また、八束村でもオオサンショウウオの産卵場所は、水のきれいな川の上流域でわき水が出ているところの下が多いとのことである。さらに、中谷川の上流や、井筒川の上流で産卵場所を確認をすることができたという具体的な情報も得られた。
基本的に河川の下、中流域は護岸改修がおこなわれていたり、中流域に落差工や砂防堰堤があるため、それぞれの河川の上流域の方に多く生息しているとの意見も聞かれた。
 また、民家、店舗等人工的構造物による排水の影響も、各河川の下流域にその生息が少ない原因としてあげることができるとのことである。
そして、どの蒜山三座の裾野を流れるどの河川も村の中心部となる高原線より下流では、オオサンショウウオが減少してきているとのことである。
 なお、この原因として、大根の生産が影響を与えているとの意見も聞かれ、雨で河川に流れ込む肥料の窒素と土砂の問題であるとして、特にその影響を受けているのが西部地域の玉田川と中谷川であるという意見も聞かれた。
また、高松川はオオサンショウウオの生息に最も適した川なので、是非とも保存してほしいとの意見も聞かれた。


 旧八束村で自然の川の形態がよく残る場所は、玉田川、上井川の上流域をはじめとする県道蒜山高原線以北の山麓域で、蒜山三座から発生する沢や谷筋を中心に広くみられ、集落から離れた渓流域で河川の環境がよく保全されている。
 また、集落の近くでも、昔に改修された護岸には、石積のものが多くみられ、その川辺にはツルヨシやミゾソバなどの水辺の植物が生育している。
 さらに、河川改修が進んでいる旭川でも、一部にブロック護岸がみられるものの、落葉樹林に被われた段丘崖や川辺の湿原などに自然の岸辺がよく残されており、自然性豊かな川の風景がみられる。なお、周囲に水田が開ける谷川では、水田へと水を引く頭首工が多く設けられ、魚類の遡上には支障があるものの、その岸には、石積の護岸が多くみられ、自然に近い状態で水辺の環境は保たれている。
 しかし、村の南部を流れる河川では、三面コンクリートによる改修も進み、山城川や野田川などの一部では、川の自然は失われている。
 また、裾野台地を浸食し、蒜山原へと流れ出る河川でも、旭川へと注ぐ下流域や中流域の一部がコンクリート護岸化し、河川の自然性は低下している。さらに、山地の渓流域では、砂防工事や治山工事がなされ、三谷川などの上流域ででは、自然の野渓をなす渓流と自然林の環境がみられるものの、大きなコンクリート堰堤が建設され、渓流の生態系は分断されている。




 旧中和村でもオオサンショウウオは全域の河川に生息しているとのことで、旧八束村と比較しても生息環境は、中和村の方がよいという意見が聞かれた。
また、オオサンショウウオは、水の冷たくきれいな上流域を好むので北部地域に多く生息し南部地域になるほど、その生息は減少するという意見も聞かれた。
 また、村の南東部を流れる植杉川や山乗川などの渓谷をなす河川には中流域に、大きな砂防堰堤や滝があるため、オオサンショウウオの遡上ができなくなり、それより上流にはほとんど姿をみることができないとのことである。
 しかし、ダム湖にはかなりの体長の大きなものがいると予想され、その個体数も多 また、生息状況からみて中和村では、ヒノキやスギの植林地木の多い谷には生息が少なく、広葉樹林の谷の方が多く生息しているという意見も聞くことができた。



 旧中和村で自然の川の形態がよく残る場所は、丘陵の間を蛇行して流れる旭川の川辺と、山乗川、植杉川などの渓谷域で、初和川でも荒井付近など山地の間を渓流となって流れる場所では、自然に近い状態で、河川の自然が残されている。
 周囲に水田が開ける津黒川や山乗川などの谷川では、水田へと水を引く頭首工が多く設けられ、魚類の遡上には支障があるものの、その岸は、地山や土羽となって梅やスモモが植えられていたり、石積で護岸がなされるなどして、自然の川に近い状態で川辺の環境は保たれている。
 また、集落の近くでも、昔に改修された護岸には、石積のものが多くみられ、その川辺にはセリやミゾソバなどの水辺の植物が生育している。さらに、河川改修が進んでいる下和川でも、一部にブロック護岸がみられるものの、昔に石積で護岸化した場所では、植生も回復し、生態系の豊かさを感じさせる川の風景がみられる。
 一方、近年、道路の新設や拡幅、河川工事、圃場整備などによって護岸が改修された場所では、ブロック護岸やコンクリート護岸によって河川の自然は損なわれている。このような場所は、下和川や植杉川の水辺を中心に水田域に多くみられる。とくに、村の北部を流れる下和川では、三方コンクリートによる改修も進み、別所や常藤などの一部では、川の自然は失われている。
また、山地の渓流域では、砂防工事や治山工事がなされ、津黒川の上流域、初和川では、大きなコクリート堰堤が建設されているため、川の生態系は分断されている。



 旧湯原町内を流れる各河川は、比較的急峻な地形を呈した山地部の谷筋と、面積は少ないものの旭川沿いやその支流周辺に平野部もみられる。オオサンショウウオは以前から繰り返し、山間の谷川で産卵して孵化した後に、その本流や旭川に下って生活していたとのことである。
 当地域は平野部の少ない地形的な条件から、以前は多くの個体が広く生息分布していたとのことであったが、平野部を生活の場として、また山間部を産業活性の地として利用する人間との共存が問題となってきているようである。このため、山地の植林化や河川の改修、農地の改変などの影響によって、現在では上流と下流の遡行を阻害する構造物の出現による分断や生息環境が減少し、生息域と個体数が共に減ってしまったとのことである。
現在の旧湯原町でのオオサンショウウオの生息状況としては、旭川では大型の個体が多く湯原ダムを含む全域で生息が認められ、その支流の比較的流域面積が広く自然の野渓を維持している鉄山川、粟谷川、藤森川、田羽根川には多くの個体が現在も生息しているとのことであった。
 また、これらの支流においては、比較的谷筋も小規模な上に地形が急峻で段差もみられ、近年の人為的な植林や農地の改良などによって、河川の形質が改変されて遡上を阻害する構造物の設置や産卵地の消失などによる生息環境の悪化が進んでいるとのことであり、小数の個体が限られた地域でのみ産卵活動を行っているに過ぎないとの情報でもあった。
 当地の地形的な面からは、旭川下流の仲間川、大庭皿川、峪谷川、大滝川、大谷川(都喜)、向井谷川などには以前からオオサンショウウオの生息が認められていないようであった。さらに、各地域に残るタタラ製鉄跡の影響によって生息が認められなくなってしまったという情報も日尾谷川などから入手できた。
 このほかでは、生息や遡上が阻害される現状の中で、河川改修が行われて生息情報が途絶えてしまった社川水系とは逆に、釘貫川などではオオサンショウウオが遡行可能な河川構造への配慮として、河床に自然石を使用したり、堰堤に遡上が可能な魚道を設置するなどの配慮もなされているとのことであった。


 旧湯原町は、昭和56年7月に集中豪雨にみまわれ、激甚災害の指定を受けている。このため、町全域において災害復旧工事が行われ、護岸の改修が進められてきた。
 湯原町で自然の川の形態がよく残る場所は、東部の山地を流れ下る白根川、古屋川、向井谷川などの渓谷域や、町の北西部を流れる粟谷川上流の渓流域で、ここでは自然に近い状態で、河川の形態が残されている。
 周囲に水田や集落が開ける粟谷川や鉄山川などの河川では、一部はブロック護岸など改修がなされているものの、岸の片方は、地山の斜面となっていたり、土羽や石積で護岸がなされるなどして、自然の川に近い状態で川辺の環境は保たれている。なお、昔に石積で護岸をした場所では、植生も回復し、生態系の豊かさを感じさせる川の風景がみられる。
 また、旭川でも河畔を走る国道の対岸に自然の岸が残り、清流らしい川の景色をみることができる。
 一方、近年、災害復旧による水路の改修や、道路の拡幅、河川の改修工事などによる護岸の改修がなされた場所では、ブロック護岸やコンクリート護岸によって河川の自然は損なわれている。このような場所は、田羽根川や社川、三倉谷川など集落域近くに多くみられる。とくに、藤森川、山田川、三倉谷川、竹谷川、五市谷川など災害復旧で、三面コンクリートによる改修が進んだ河川では、川の自然は失われている。
また、山地の渓流域では、砂防工事や治山工事がなされているほか、高速道路の建設による大規模な地形の改変がなされ、谷川の生態系は分断されている。










 
オオサンショウウオ生息地保全に向けての組織づくりや環境保全対策については、地元自治体(真庭市環境課)や地元教育委員会(真庭市文化財課)と協議を行っているほか、オオサンショウウオ保護の全国ネットワーク大会に加盟参加し、情報交流を行っている。









































 「特別天然記念物オオサンショウウオ生息地生物多様性調査」を実施する中で、鳥取大学蒜山演習林「蒜山の森」の中を流れる谷川(苗代川)及びその背後地となる森林域(コナラ林、ミズナラ林、ブナ林)が生態系保全区(サンクチュアリー)の候補地の一つとして評価された。
 この区域は、面積にして400haを超える森林渓流域であり、オオサンショウウオやクマタカを頂点とする良好な生態系が残されていると考えられた。






















 調査結果に基づき、オオサンショウウオを含む水辺野生生物の保護域を考察するとともに、地元自治体と地域住民を対象に2005年7月28日に現地見学会「オオサンショウウオ棲息地"蒜山の森"現地視察会」を実施した。






 評価結果をもって鳥取大学および地元真庭市教育委員会に協力を求めたところ、生態系保全区(サンクチュアリー)の指定および調査協力のみだけなく、伝統的な自然工法による自然再生工事など保護対策事業や環境教育事業についても協働での取り組みが可能となった。




 さらに、本調査研究を踏まえ、オオサンショウウオを含む河川生態系の保全について、地元自治体(真庭市)とも協議しており、環境基本計画策定でも検討してもらいたいと考えている。






 オオサンショウウオの生態については未だ不明な部分が多いことがわかった。とりわけ、オオサンショウウオ幼生について確認例が少なく、幼生期にどのような環境に潜んでいるか明確にされていない。

 従来、オオサンショウウオの保護は、河川域での成体の移動路(遡上路)と営巣地の確保を中心に進めてられてきたが、本調査において、幼生の生息環境は、山間水田脇の小水路などドジョウやメダカなど生息する水辺環境である可能性が示唆された。

 今後、オオサンショウウオの生息環境の保護をはかるためには、河川域・渓流域のみならず、周辺水田域や隣接樹林域においても、生物多様性の保全が求められており、今後は、オオサンショウウオ幼生期の生態を解明し、農地・農業用水路においても保護対策を検討していくことが必要とされている。
 今後、オオサンショウウオの生息環境の保護をはかるためには、河川域・渓流域のみならず、周辺水田域や隣接樹林域においても、生物多様性の保全が求められており、今後は、オオサンショウウオ幼生期の生態を解明し、農地・農業用水路においても保護対策を検討していくことが必要とされている。




真庭の河川環境

オオサンショウウオの生態

河川環境調査

大山椒魚サンクチュアリー










        川を生かしたまちづくり










        里川の自然と風景