里川の近くには昔懐かしい農村の風景や景観資源が残る。
伝統的川づくり工法による川のビオトープ再生
自然景観や原風景の保全を考えている人たちとのネットワークも
その昔、ハンザキは小水路(つかい川)にも多く見られた
ハンザキは集落近くの川にも棲んでいる。
昔懐かしい石積み護岸の川

メールを送信

topに
里川の自然と風景
蘇れハンザキの棲む懐かしくも美しい水景色




 ここ20年あまりで里山という言葉が有名になった。奥山に対して、人里近くにあって人の手が加わった山林あるいは林野域を示す概念である。ごく最近まで普通に見られた里山の環境は、自然と人との共生によって維持されていて、生物多様性の意味からいっても興味深い空間となっている。産業構造の変化や農村の都市化にともない、里山の姿も大きく変わりつつあり、昔ながらの里山の景観は限られた地域にのみ残されている。
 それでは、川について目を向けて見よう、農村を流れる川は、河畔に農地が広がり、下流には集落が見られることから、古くから人の手によって管理され、利用されてきた人里の川であり、生活の知恵や文化がみられた。



 農村の人里を流れる川は、河畔に農地が広がり、近くに集落がみられることから、古くから人の手によって管理され、利用されてきた温もりのある川であり、生活の知恵や文化がみられた。
 このような「人里を流れる川」は、畔が石積み護岸、あるいは、スロープ(緩斜面)であった。農家の人たちは、川で洗いものをしたり、水をくむために、そして、農地に水を引くために、石を積んで、水の流れを変えていた。このことが結果的に川の流れに微妙な変化をもたせることになり、小さな瀬や淵、止水域(水だたえ)をつくることにもなっていた。
  また、ツルヨシやススキが育つ河原では、牛が遊ばされ、そこに生える草は、家畜の餌になっていた。スロープ上に生える夏草は、刈り取られ、家畜の餌や屋根材として利用されていたため、四季に変化のある風景をみせ、「人里を流れる川」の近くには、多くの種の草花が育っていた。さらに、川沿いの土手に目を向けてみると、川辺に梅や柿の木が植えられ、川面に静かな影を落としていた。
 このように「人里を流れる川」では、人と川との生活の中での係わりによって、多様な環境が形成され、それに応じて生物生息環境がみられた。
























  「人里を流れる川」では、人と川との生活の中での係わりによって、多様な環境が形成され、それに応じて多様な生物生息環境がみられた。
 そこは、まさに「川のビオトープ」と呼べる水辺の環境で、民家から排出される適度の有機物は、川に多くの生き物(魚類やオオサンショウウオなどの両生類)を棲まわせる環境をつくることにもなった。水辺の植物は、群落となって小動物の隠れ家となるとともに、有機物や栄養塩類を吸収し、川の水を浄化していた。
 石積みの護岸は、その隙間に魚や小動物を住処となり、水を漏出、浸透させるなどして、水環境の変化を緩和していた。
















 昔のままの姿で残る農村の河川は、水辺に棲む生き物にとって貴重な生息環境となっている。水辺に草や木の生える風景は、生態系の豊かさを感じさせ、水辺に育つ植物は、高さ30mにおよぶケヤキやエノキ、ヤナギの高木から、高さ数cmのヒメシダやミズタビラコまで多種で多様な水辺環境をみせ、野鳥や魚、昆虫などの良好なビオトープをつくっている。
 真庭市を流れる川には、ゲンジボタルやカワセミなど、良好な水辺環境の存在を示す指標生物がよく観察できる。真庭でみられる主なホタルは、ゲンジボタルとヘイケボタルで、ゲンジボタルの幼虫は、流れのある川に棲み、水の底に棲むカワニナという巻き貝を餌とする。ゲンジボタルの棲む川は、水辺に草が生え、それと連続する水田やワンドなどの浅い湿地が必要とされている。
 ゲンジボタルは清流の指標種であるが、ヤゴの時代、カワニナを餌として成長し、カワニナは比較的流れが緩やかな場所に棲む。











 ここ真庭地域でも、このような昔なつかしい「里川」の環境が年々失われており、ドンコやカワムツ、タカハヤなどの姿はみられるが、昔よく見られたアカザやオヤニラミの姿は最近みられなくなってきた。
魚のほか、水辺に棲む生き物としてカワセミやセグロセキレイ、ヒキガエル、イモリ、ゲンジボタル、オニヤンマ、ギンヤンマ、ニシカワトンボなど多くの生き物を観察することができる。
 真庭の川の環境を象徴するカワセミは、平地から山地の河川および湖沼などの水辺に生息するスズメよりやや大きい青い鳥で、コバルトブルーに輝くその姿は、川の宝石と呼ばれることもある。餌となる小魚が生息する水辺と巣をつくるための土崖が生息の条件とされ、一時は河川の水質汚濁による小魚の減少など環境悪化とともに、その生息数が減少している。
 また、真庭地域でも、秋にたくさんの赤トンボが飛び回るが、このあたりでみられる赤トンボは、ナツアカネ、アキアカネ、ネアカトンボなどで、夏近くになると、浅い池や田んぼの近くの水路で羽化し、真夏は、高い山にいて、秋になると人里の周りに舞い下りて来ます。そのころは、体の色が真っ赤になっている。

































 真庭地域を流れる河川でも護岸の改修や圃場整備などによって、近年になって水際や河畔の環境も変わっている。また、近年は草刈などの管理が行われていない場所もみられる。
 しかし、河畔はほとんどが農地で、調査区域は古くから人の手が加えられた里の川で、一部石積みの部分もみられ、小さな淵や流れの速い深みなど保護すべき環境要素がみられる。





















  ツルヨシのように背の高い水辺の植物からなる群落の存在は、トンボ類の生息にとって不可欠で、多くのトンボの生息が可能となっている。
 また、ニシカワトンボなどの小型のトンボは、オニヤンマなどの大型のトンボから身を隠す意味でも重要である。
ツルヨシ群落やススキ群落のように草むらとなる環境は、小動物がサシバなどの猛禽類から身を隠す上でも重要で、ネズミ類の生息の場となっていることが多い。
なお、川岸にはケヤキ、エノキ、エゴノキが育つ環境がみられるが、川面に枝を張り、水辺に影をつくる樹木の存在は、魚類の生息環境を考える上で重要で、樹木から川に落下する昆虫は魚の餌となる。また、木の葉は川底に積もりカゲロウやカワゲラなど水生昆虫の餌となり、魚の餌となる。

魚の餌は、底生動物や落下昆虫、プランクトン、川底に生える藻で、とくに水生昆虫(底生動物)は、水の中の生態系や食物連鎖を考える上で興味深く、カゲロウやカワゲラなど底生動物は水に落ちた木の葉の分解者である。
 カワセミは、清流の指標種とされ、水質が保全され、餌となる魚類が多く棲むことが生息の条件となっている。また、カワセミは木の枝に止まり、水面に滑空して魚を捕らえることから、川岸にそのような木が生えていることが望ましい。




 オオサンショウウオの生息する真庭市北部は、瀬が連続する清流域で、河道内を川が緩く蛇行し、中小の礫が堆積している。コンクリートブロックの護岸などが少ない、昔ながらの水辺は、基本的には残すべき環境である。
 とくに保護保全すべきものは、岩盤が深く浸食されてできた淵で、岩盤の上に樹木が生え、淵を覆う形となっていることから、魚にとっては、格好の避難場であり、休息の場、繁殖場となっているものと考えられる。
 竹林は、小規模なものであるが、川面に日陰をつくり、河川の環境に多様性をもたせている。
 ツリフネソウの育つ水辺は、ツルヨシ繁茂する草むらの多い真庭の河川水辺の中で、特別な環境となっている。ここでは、比較的大きめの礫が堆積し、山陰のやや日当たりの悪い場所であるが、環境の多様性という意味で興味を引く空間である。

 農村域において、オオサンショウウオ棲息地として、復元すべき環境は、かつての「里川」で見られた石積み護岸やスロープ(緩斜面)であり、緩やかに蛇行した川の流れである。そこには、小さな瀬や淵、止水域(水溜まり)が多く見られ、メダカやトンボ類、ヤマセミなどが棲む故郷の川の生態系が回復するであろう。
 河川では、蛇行により淵がつくらているが、人里を流れる川においても、いわゆる近自然工法などを用い、河道内で水の流れを緩く蛇行させ、流れが速い部分と遅い部分をつくることによって、小さいながら瀬と淵の環境が形成されるようにする。
 河道内で緩やかな蛇行を形成させるために、河床となる面積を広くとるが、用地の関係で、川幅を広げることが困難な場合は、護岸の勾配を急にすることで対応する。この場合、ブロック護岸やコンクリート擁壁を避け、篭マットや石積み護岸で対応することが望ましい。



























 石積み工法での河川工事が行うことで、水辺に多孔質環境の形成され、地下浸透水の循環やヘビ、昆虫類の住処として生物生息多様性が高まる。
 真庭では、現況は圃場整備などにより石積みの護岸は一部にしか残されていないが、かつては、美しい石積み護岸が連続し、人為的な管理がなされた「里川」であったと考えられる。河道内には多くの礫がみられる場所もあり、これらを利用すれば、比較的容易に石積み工法での河川工事が行えると考えられる。
工法的には、伝統的な石組みの技術による石積みが望ましいが、アンカーとボルトによって石積みを固定し(アンカー止め自然石工法※)、コンクリートの使用を最小限に抑える方法などで護岸をつくっていく。

 近年、生態系に配慮した仕様のコンクリート二次製品が用いられることが多いが、コンクリート二次製品はその製造段階および輸送運搬の段階において、地球環境に負荷を与えることが多いほか、画一的な企画品であることから、ビオトープのように、生物生息多様性の観点から、微妙な環境変化を求める工法には対応させにくい。
また、地域の伝統文化を感じさせる林野の風景が広がる農村域や「里川」においては、景観的な違和感を生じさせることが多い。
 現地で自然石など工事材料の調達が容易な農村域における河川工事では、篭マット工法あるいは石積み護岸工法、祖朶工法など、自然材を用いた工法を採用する。
とくに、生態系保全区(サンクチュアリー)では、コクリートやコンクリート二次製品の使用を避け、護岸の材料は、自然石や木材などできるだけ現場で調達する。






















 真庭地域では、川辺にケヤキやエノキ、エゴノキ、ネムノキ、ウツギなどの樹木が生育していることが多いが、川辺に育ち枝を張る樹木は、水面に木影をつくり落、葉や昆虫を落下させて、河川環境の多様性を高めている。
 とくに、水辺に急降下し、魚を補食するカワセミやヤマセミをはじめ、野鳥にとっては重要な環境要素である。
また、「里川」においては、梅やすもも、柿などの果樹がよく植えられており、農村の風景を演出する花木であり、鳥や蝶にとっては食餌木でもあった。

 水際の環境多様性を高め、魚類の生息環境を保全する目的で、ヤナギ(ネコヤナギなど)の枝を挿し込んだ蛇篭や篭マットを使用する。


 河道内で緩やかな蛇行を形成させるために、河床となる面積を広くとるが、用地の関係で、川幅を広げることが困難な場合は、護岸の勾配を急にすることで対応する。この場合、ブロック護岸やコンクリート擁壁を避け、篭マットや石積み護岸で対応することが望ましい。
傾斜が緩やかなスロープ斜面を確保することについては、用地の関係で、河床が狭くなることにもなるが、生物生息多様性を高めることや、小動物の水辺へ近寄りやすくすること、川岸の環境に変化をもたせる上で、保存すべき淵の対岸など、断面的に余裕のある場所に確保する。
また、スロープ(緩斜面)は、野芝などを植栽し緑化することがあるが、遷移が進むにつれて、ススキやウツギ、ネムノキなどが自生の植物が生育するようになる。
 さらに、草刈や火入れなど、人為的な管理によりスミレ類やチガヤ、秋の七草が咲く草地としての管理も可能である。
 また、イタチやタヌキなどの小動物が水辺に近づきやすいよう、けもの道となる小動物用の斜路やスロープ(緩斜面)を形成させる。
 斜路の幅は50cm以上とし、「里川」としての利用や管理を考慮して、人間が歩けるものを考える。斜路は石積みなどでつくり、河原や止水域の環境に接続する場所に設ける。































  真庭市においても、水深1mを超える淵が多く存在しており、魚類の繁殖などの点から保存すべき環境となっている。
とくに淵の部分は上に樹木が育ち、淵に木陰をつくる格好となっており、カワムツやドンコなど多くの魚の避難場や休息の場となっていることから、淵と樹木との一体的な保存を考える。
 淵の部分は、岩盤となっていることから、工事においては、現況の状態で保存し、改変させないとともに、緩い蛇行を形成させる際に、現況の淵が流れが速い部分となるように設計し、土砂が堆積して淵が埋まらないようにする。









































 生物生息多様性を高め、多くの生き物が棲むビオトープとして環境復元を行うために、ワンドや水だたえなど、水が溜まり止水域となる環境を形成させる。止水域の環境は、いわゆる多自然工法などにより、河道内で水の流れを緩く蛇行させるとともに、石組みで水の抵抗をつくり、水だたえ(堰などによって水がたたえる場所)を形成させるなど、水の流れが極端に遅い場所をつくることで形成させる。
 このような、止水域のみられる川では、イモリやカエル類などの両生類、トンボ類も多く生息する。
 また、河原にワンドや水溜まりの池が形成されることも多く、水辺にヤナギ類が生育する場所では、モリアオガエルの産卵がみられることある。

 さらに、小動物の生息環境の確保をはかる上で、河原の保存と形成を行う。河原は、止水域の環境の形成ともに行い、河道内で水の流れを緩く蛇行させるとともに、石組みで水の抵抗をつくるなど、水の流れが極端に遅い場所をつくることで形成させる。。


































真庭の河川環境

オオサンショウウオの生態

河川環境調査

大山椒魚サンクチュアリー










        川を生かしたまちづくり










        里川の自然と風景