美しい自然は人に感動を呼ぶ。懐かしい風景は人に安らぎや落ち着きを与える。そういうものが失われていくことが、今は時代のなりゆきですまされがちであるが、そんなに遠くない将来、人にとって大切なものであったと気づく日が来るであろう。 |
 
京都の美山町や鳥取県江府町の草葺き屋根の小屋にみるように、草葺き屋根の民家は田舎の自然にとけ込んで、懐かしい日本の原風景を演出する。
昔から地域に残る草屋根民家は、美しい農村風景を演出するのみならず、自然と共生する知恵や文化、農村の歴史文化、生活文化を伝える民俗文化財であり、地域遺産として大切にすべき環境ランドマークである。 |



それは、単に草葺き民家を別の場所に移設し、建物を保存するというよりも、草屋根民家が立地する環境そのものを原風景として保全する取り組みも大切である。
日本の草葺き屋根の民家は、その地域の気候風土や土地利用、生活文化を反映させており、水田農村環境の中、周囲には棚田や里山、小川、鎮守の杜、竹薮、里川などの農村環境要素と一体になったものだからである。
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現在、多くの地域で草葺き屋根の民家が移築され、民俗資料館や休憩施設などに利用されているが、地域の自然と調和した風景を再生するという観点から移築保存にあたっては、その立地についての検討も必要とされる。

 
草葺き屋根の風景を考える時、周囲の自然や農村風景の成り立ち、生態系まで踏み込んでみたい。そこには、町並み保存や都市計画といった建築学的な要素よりも、ビオトープや生物多様性といった生態学的な知見を大切にしたい。 |
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